辺野古撤回停止 県、提訴 玉城県政初提訴 上告取り下げ 国動かず 政府主張“ほころび”も


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 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡る県と国の対立は、新たな法廷闘争に突入した。玉城県政としては初の提訴で辺野古新基地建設問題は再び重大局面を迎える。一方、玉城デニー知事は「司法ではなく対話による解決」として辺野古移設を再検証する協議の場の設置を引き続き模索していく構えで、舞台が完全に裁判に移ったのではなく、政治と司法の両面で県と政府の綱引きは続きそうだ。

 玉城知事は19日に安倍晋三首相と会談した際、工事停止と1カ月程度の協議を要請したが、政府は応じなかった。その過程で、県が岩礁破砕差し止め訴訟の上告を取り下げる意向を示したことも注目された。

■決裂

 「土砂投入を延期するなら、県としてどういった汗がかけるのか」

 杉田和博官房副長官は謝花副知事に迫った。19日のトップ会談に先立つ3月中旬、首相官邸側からの提案で2人は東京都内で非公式に面談していた。

 直後の16日に那覇市内で開かれた新基地建設断念を求める3・16県民大会には、急な開催呼び掛けにもかかわらず主催者発表で1万人が駆けつけた。県民投票の結果によらず工事を続ける政府の姿勢に不満が噴出し、沖縄防衛局が25日に新たな土砂投入の開始を予定していることにも批判の高まりを見せていた。

 こうした中で急きょ決まった安倍首相との面談で、玉城知事は岩礁破砕差し止め訴訟の上告を取り下げることを提案した。さらに政府が工事停止に応じるならば、承認撤回を巡る訴訟の提起も控えることを示唆した。訴訟合戦で溝を深めるのではなくトップの政治判断で柔軟な判断ができるというメッセージを発し、「翁長県政とは違うという雰囲気が伝わったのではないか」(県幹部)という期待も県庁内にあった。

 しかし、20日昼ごろには謝花副知事の元に杉田副長官から連絡が入った。新たな区域での土砂投入を予定通り25日に実施する方針が伝えられた。工事中止を求めていた県にとっては「意に沿わない回答」(同幹部)だ。21日、玉城知事が出張先で提訴の方針を最終確認し、謝花副知事が与党にも方針を説明した。

■法廷闘争へ

 「対話しても折り合えない以上、この道しかないことはお互いが予想できていることだ」

 玉城デニー知事が就任後安倍晋三首相と4度会談を重ねた末に踏み切った提訴を、政府関係者は淡々と受け止めた。

 玉城知事が伝えた上告取り下げは、もともと県敗訴の見通しが濃厚だっただけに、政府側を交渉の土俵に引き上げる材料とはならなかった。22日の県の提訴の今後の展開についても、政府内に悲観的な見通しはない。

 ただ政府が工事に突き進む一方で、今後の法廷闘争でも重要争点の一つとなる軟弱地盤の問題については、工事長期化などを裏付ける事実が次々浮上し、政府側の主張に“ほころび”も生じている。

 防衛省が今月15日に国会に提出した地盤改良に関する報告書を巡り、野党は22日の審議で深さ90メートルの地点での地盤強度を同省が直接調査していない点を取り上げた。「問題はない」と答弁する岩屋毅防衛相に対し「虚偽答弁だ」などと追及した。

 膨らむ工期や工費についても不透明な要素は依然多く、ある野党幹部は「工事を取り巻く状況は、埋め立て承認取り消しの訴訟時とは異なる」と話し、追及姿勢を強める考えを示した。

 今後の見通しについて、ある県幹部の一人は「政府は民意で勝てない以上、司法の力を借りるしかない。変更承認の不許可など県にはさまざまな道がある」と語った。(當山幸都、吉田健一、明真南斗)