政府、対話を拒絶 沖縄県、軟弱地盤で強気 辺野古新区域 土砂投入


この記事を書いた人 大森 茂夫
名護市辺野古の新基地建設で埋め立て区域「(2)」に土砂投入を開始するダンプカー=25日午後3時(ジャン松元撮影)

 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設で、沖縄防衛局は辺野古沿岸部の新たな区域への土砂投入を開始した。2月24日の県民投票で辺野古埋め立て反対票が7割を超え、玉城デニー知事は今月、安倍晋三首相と2度にわたり面談し工事中止を求めたが、政府は聞き入れなかった。大浦湾側の軟弱地盤の改良工事など不透明な中、政府は土砂投入を強行し既成事実化を急ぐ。一方の県はあくまで強気の姿勢で、埋め立て承認の再撤回をちらつかせながら、全国世論に国の民主主義の在り方を問い掛け、共感を広げたい考えだ。

■県の冷静な戦略

 「工事を中止して対話するのが民主国家としてのあるべき姿だ」。25日午前9時すぎ、登庁した謝花喜一郎副知事は報道陣の問い掛けに答える形で政府をけん制した。玉城デニー知事は先週から米ハワイに出張で不在だが、県幹部たちは午前9時半から開いた定例の会議で知事コメントを出すことを確認した。

 沖縄防衛局は25日朝から土砂投入の準備を行い、着手したのは午後3時。大雨の中、作業は約2時間にとどまった。それでも強行した政府に対し、県幹部の一人は「(25日投入と)発表したからにはやらないといけないということだろう。国民や米国向けのアリバイづくりだ」と指摘した。県政与党幹部は「政府は『工事は進んでいる』とアピールしたいだけ。軟弱地盤で新基地建設は不可能となる。諦める必要もなく、政府の思惑に乗る必要もない」と分析した。

 県が強気に出る背景には、大浦湾側の軟弱地盤の存在がある。政府が大浦湾側で埋め立て工事を進めるためには設計変更を申請し、県から承認を得る必要がある。県は、国から設計変更の承認が申請されても認めない構えだ。知事権限の行使や再撤回などをちらつかせながら政府との対話と並行し、県民投票の結果を背に全国世論に向けて訴えていく戦略だ。

 県幹部は「地道な努力が必要だ」と話す。知事コメントも「全国民の皆さまには」と強調し「民主主義のあるべき姿として、共に声を上げていただきたい」と訴え掛ける内容だった。

■「工事進めるだけ」

 政府関係者は、知事の工事中止と対話の求めについて「工事を止めて話し合いをしても、結局は工事を進める結果にしかならない」と突き放す。防衛省が最初に土砂投入に踏み切った辺野古南側の工区(6・3ヘクタール)と、25日に着手した隣の2工区目(33ヘクタール)を合わせると、埋め立て面積は全体(160ヘクタール)の4分の1に達する。軟弱地盤の対応で工期が長引くことは確実だが、それでも工事を進めることで“既成事実化”が図られるとの思惑が垣間見える。

 岩屋毅防衛相はこの日、昨年12月に着手した最初の埋め立て時に土砂運搬に使えなかった本部港について「使用許可を得るべく協議している」と説明した。防衛局は4月1日以降の許可申請を町に出している。認められれば、現在土砂を積み出している安和桟橋(名護市)と並行して土砂の運搬が可能になる。

 防衛省関係者は「(本部港の)許可が得られれば埋め立てのスピードも進む」と説明する。

■3区補選への影響

 新しい区域への土砂投入は、名護市辺野古を含む衆院沖縄3区の補欠選挙(4月21日投開票)にも影響を与えそうだ。辺野古新基地建設が補選の最大の争点となるだけに、県政与党は「県民投票と同様に、反対の民意を示そう」と気勢を上げる。ただ野党自民からは、土砂投入が前から決まっていたこともあり「影響は全くない」との意見が大勢を占める。自民県連関係者は、自民党公認で出馬する島尻安伊子氏が辺野古「容認」を正式に表明したことを念頭に「政府が土砂投入を止める理由はない。むしろ島尻氏が『容認』を正式に表明したことで工事を堂々と進めることができる」と強調した。(明真南斗、當山幸都、吉田健一、中村万里子)