なぜ沖縄に対するフェイク情報、ヘイト言説が流れるのか?ネットの時代に希望はあるのか? 「ファクトチェック」座談会【2】


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基地建設に反対する人たちの抗議行動について「サルと同じ」などと書いた「ネットギーク」によるツイッターの発信記事

 2018年9月の県知事選で琉球新報は地方紙としては初めてファクトチェック報道を開始し、ネット上を中心に拡散される偽情報や根拠不明の情報など「フェイクニュース」について、事実を検証した記事を掲載した。17日に開かれた座談会には、専門家やネットメディア、全国紙から有識者が集まり、本紙報道への評価や、ファクトチェックの今後の方向性について活発な議論を交わした。出席者らはそれぞれの立場から現実社会に影響を及ぼしているフェイクニュースに対応するメディアの姿勢、選挙報道におけるファクトチェックの意義について考えを語った。(文中敬称略)

(右から)瀬川至朗氏 古田大輔氏 倉重篤郎氏 滝本匠

参加者

瀬川至朗氏(早稲田大教授、NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」理事長)
古田大輔氏(ネットメディア「BuzzFeeD Japan(バズフィード・ジャパン)」創刊編集長)
倉重篤郎氏(元毎日新聞社政治部長)
滝本匠(琉球新報東京支社報道部長)

進行 島洋子(琉球新報報道本部長)

沖縄以外でデマが発生、拡散

 島 沖縄に対してヘイト的な言説、基地問題に関する誤った言説が流れる。

 古田 米ファクトチェック団体ファースト・ドラフトのクレア・ウォードル氏は「政治的な争点になりがちなものは、ゆがめられた情報が流れがちだ」と指摘している。それがまさに沖縄なんだろうと思う。

 基地問題の議論で政治的争点がある。だからこそ繰り返しゆがめられた情報が流される。ウォードル氏は対抗する手段は同じようにファクトチェックを続けるしかないと言っている。

 差別や、少なくとも沖縄を違った目で見るような目線があるのではないか。そこが操られた情報のデマが沖縄に対して絶えず出続ける理由なのではないかと思う。沖縄に対する誤った情報が流れるときは、沖縄以外のところが発生源になって、沖縄以外のところで拡散している。でもそれは最終的に逆輸入されて沖縄の人たちにまで影響を与え始める。沖縄のメディアだけではなくて(東京在の)われわれも真剣に取り組まなければいけない。

古田大輔氏

 瀬川 沖縄に対するフェイクが増えているのは事実だと思う。嫌中、嫌韓というものと深く結びついているとも思う。日本はフェイクニュースが少ないようにも一見捉えられているが、かなり断定的な情報、偏った情報が根拠無く流れている。ネットの情報を見ると、対象とすべき真偽不明の情報は限りなくあると思っている。

 沖縄の問題は集中してデマが起きてきた場所だ。かつそこで、メディアが日本の中では先駆けて(ファクトチェックに)取り組んでいる現実がある。気付いていないだけで、全国的にも(フェイクニュースは)あると思う。

 倉重 なぜ沖縄でフェイクがあり、ファクトチェックの先進県になったのか。一つ考えると、沖縄県紙の2紙体制があり、国策における安全保障政策に対して、国からすれば協力的ではない、批判的であるということと無縁ではないと思う。政策を遂行していくためには、どうしても民主的なバックグラウンドが必要であって、それを少しでも自分たちの都合の良い方に持ってくるために、選挙が大事となる。

 私の推測であるが、選挙の時にそういうものを使って有利な方に近づけるということを権力としてはしているのではないか。おそらく(フェイクニュースは)東京発のものがほとんどだと思う。資金源などを突き詰めていくことも必要となる。

 瀬川 難しいが、共同でコラボレーションして検証していく手もある。

2万人の記者がネットも監視する

 滝本 まん延しているフェイクニュースが読まれた数と、ファクトチェックの記事が読まれた数を比較すると、圧倒的にフェイクが多い。フェイクの数を上回らないと届かないのかもしれない。ネットの中でどう届けるのか。

滝本匠

 古田 特にそれは記者個人だけではなくて、編集局のトップの戦略を立てる人が考えないといけない部分だ。この記事の見出しを読者に届けるために、あらゆる手法を使う。それは自社のウェブサイトもそうだし、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムなど多くのプラットフォームを理解して、配信をして、届けるための戦略をきちんと考えないといけない。読者との間に関与を生み出すところまできちんと考えないといけない。「書いたらあとは読め」という感覚がまだまだあると思う。それでは読んでもらえない。

 瀬川 フェイクニュースはリアルニュースより拡散力が強いというのは証明されている。「ポスト真実の時代」と言われる。真実よりも自分が信じているものをシェアするというのは、今はSNSだが、昔は口伝えで広がっていた。ポスト真実は別に今の時代だけではないと認識した方がいい。

 一方でネットの時代は、自分たちが発信者に簡単になれる。曖昧な情報は過去から今までいたるところにあったんだと思う。むしろ今は検証しやすい時代で、さまざまな情報が出てきても「本当か」と調べることができる。それをジャーナリズム、メディアがやっていくということが重要だ。ただし、リアルニュースもフェイクニュースと同じだけ拡散しないといけないのかという問題はまた別だ。

 倉重 インターネット市場の需給関係だと思う。うそと真実と、どちらがより売れるのかというと、過去も今もうその方が面白い。人を傷つけたりしているものもあった。しかし真実の価値も捨てたものではなくて、ネットの時代は、真実もまた早く世界に伝わっていく可能生もあると思う。

 真実の輝きが世の中を変えるかもしれないという楽観的な期待感を持ってこの時代を乗り切っていくしかない。(全国にいる)2万人の記者たちが、ネット社会も監視するという社是を対策としてとって、新聞協会がそこをチェックするようになればまた変わるのではないか。