音やにおいで判断、毒殺を目の当たりにした証言も…脳性まひの男性が障がい者の沖縄戦を調査・執筆 「僕だからこそ書ける視点で」


この記事を書いた人 大森 茂夫
「沖縄戦を知る事典」で、障がい者の戦争体験を調査し執筆した上間祥之介さん(左)と執筆のきっかけをつくった元沖縄国際大教授の吉浜忍さん=25日、南風原文化センター

 沖縄戦の最新の研究成果を反映し網羅的に分かりやすくまとめた「沖縄戦を知る事典―非体験世代が語り継ぐ」(吉川弘文館)が25日までに発刊された。「障がい者」の項目を執筆したのは、生まれつきの脳性麻痺(まひ)のため、肢体不自由のハンディがある上間祥之介さん(23)=南風原町=だ。戦争を体験した視覚障がい者2人、聴覚障がい者1人、肢体不自由者1人の計4人に、当事者の視点から聞き取り調査をし、参考文献を踏まえて執筆した。「僕だからこそ書ける視点を大事にしたい」という上間さん。視覚や聴覚など障がいによって異なる体験の特徴を出したいと思いを込めて書いた。

 関係者によると、障がい者自身が当事者の視点で戦争体験を調査し、成果をまとめたことは「全国的にも前例がないのではないか」と指摘する。

 上間さんが障がい者の戦争体験について調べ始めたのは、沖縄国際大に在学中だった。当時、沖国大教授だった吉浜忍さんが講師を務める沖縄戦の講義を3年生の時に受講し、関心を深めた。卒業論文は障がい者の沖縄戦体験についてまとめた。2018年3月に大学を卒業し、今回の事典で障がい者の項目の執筆を吉浜さんから打診を受けて引き受けた。

 研究者や地域史編集者ら経験豊富な執筆者がいる中で、上間さんは「僕で大丈夫かなと不安もあった」と明かす。

 聞き取り調査をへて、戦場を逃げる中、視覚障がい者は音やにおいで状況を読み取ったことや、障がい者を毒殺する光景を目の当たりにした証言なども記録し、まとめ上げた。

 執筆者に推薦した吉浜さんは「上間さんには、当事者としてわれわれには分からない体験がある。調査する意欲に頭が下がる。障がい者の戦争体験の証言は本当に少ない。今後も多様な体験を聞き取りし、障がい者にとっての沖縄戦体験の全容を捉えてほしい」と語った。(古堅一樹)