物語の着想はどこから? 琉球新報児童文学賞


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 第31回琉球新報児童文学賞は、短編児童小説部門があずさゆみさん、創作昔ばなし部門が池宮城けいさんにそれぞれ決まった。2人は物語を着想し、執筆した後、何度も表現を調整し書き直すなどして今回の作品を練り上げ、正賞の獲得につながった。受賞の喜びを語ると同時に、今後の創作への意欲を語った。

■始まりは3行のメモから 短編児童小説部門のあずさゆみさん

執筆時に側に置くキツネのぬいぐるみ「木の葉丸」を前に創作の様子を語るあずさゆみさん=那覇市

 受賞の知らせに「取れて良かった」と喜びつつ「精進しないといけない。頑張っていこうと思う」と気を引き締めた。短編児童小説部門で正賞に選ばれたあずさゆみさん。昨年に続き2回目の挑戦だった。

 小説のアイデアは、思い付いた時にスマートフォンや手軽に文字を入力できるデジタル端末「ポメラ」にメモする。受賞作「蛍火」も「ポメラ」に入力した3行程度のメモから始まった。沖縄の「マジムン」(魔物、妖怪)についての文章を読み、「自分ならどんなものを書くだろう」と空想してみた時に、思い付いたという。

 「蛍火」は、やんばるの森にすむキジムンが主人公。キジムンの森に住み始めた人間の家族が、戦争に巻き込まれ、一人ずつ減っていく。当初は原稿用紙30枚で書いていた作品を、今回の応募用に20枚に書き直した。「どこを減らして、どこを残すのかが大変だった。読み返すたびに書き直した」と振り返る。

 戦争を舞台に設定した思いについて「戦前にあった沖縄のいいものが戦争で破壊された。それでも、形が変わっても残って引き継がれているものがある」と語る。物語では、森も戦争で大きく姿を変えるが、戦争が終わり、長い眠りから覚めたキジムンは再び森にすみ続ける。「変わってしまったが、そこに希望を見いだせるものがあるといいなという願いを込めた」。今後の創作へ向け「もっと面白いものを書きたい」と意欲を見せた。

■父の三線盗難体験を基に 創作昔ばなし部門の池宮城けいさん

執筆時に使っている自宅の机に向かい、創作への思いを語る池宮城けいさん=浦添市

 続けてきた研さんが実を結んだ―。創作昔ばなし部門で正賞に選ばれた池宮城けいさん。琉球新報児童文学賞は、短編児童小説、創作昔ばなしの両部門を合わせて3回目の挑戦。1996年に短編児童小説部門で佳作を受賞していたが、正賞は初。「書き続けていて良かった。継続は大切だなと思う」と笑顔を見せた。

 受賞作「盗人とカチャーシー」は若者タルーが大切にする三線を盗人が盗んで村はずれまで逃げる昔話。三線から音が勝手に鳴り出し、盗人が慌てて身に着けていた着物や肌着をかぶせていく。音はだんだん大きくなり、村人たちが音のする方へ集まりだす―。

 物語は、池宮城さんの父が10代の頃、三線を盗まれた体験から着想を得た。父はある日、遠くから聞こえる毛遊(もうあし)びの三線の音色が、盗まれた自分の三線だと気付き、取り戻しに行ったという。

 今回の受賞作では、タルーは盗人を怒らず、祝いの場では一緒に歌三線、カチャーシーを楽しむ様子が出てくる。「ウチナーンチュの優しさ、互いに相手を許す、仲良くしていく」ことをテーマに書き進めた。さらに「昔から受け継がれ、沖縄の生活の中に溶け込んでいる三線文化についても伝えたい」との思いも作品に込めた。

 今後も創作を続ける。「(沖縄の文化、自然など)残してほしい、忘れてはいけないことは書き残していきたい。弱い立場にいる人たちのことも書きたい」と語った。