フィリピン国籍が故に…同じ被害も賠償されず 20代で移住、爆音下に暮らす50代女性 不条理訴える


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被害の状況と国籍で賠償が判断される不条理さを訴える池原エベリンさん(左)と宮城マリコさん=4日、うるま市昆布

 第3次嘉手納爆音差止訴訟一審判決で那覇地裁沖縄支部はフィリピン国籍の原告5人の賠償請求を棄却した。そのうちの1人、池原エベリンさん(51)は、20代でうるま市昆布に移り住んだ。頭上を飛ぶ米軍機の騒音に悩まされてきたのは、他の原告と同じだ。「被害を受けている同じ人間なのに、なんで…」。池原さんはそう言って、首をかしげた。

 国家賠償法は外国籍の原告の賠償について、原告の本国で日本人が同様の国家賠償を受けられる場合に対応する「相互保証主義」を採用している。那覇地裁沖縄支部は判決で、フィリピンの法律では国の公共施設から派生した損害について「国は賠償する責任を免除されている」と指摘。フィリピンとは相互保証の関係にはないと判断した。

 池原さんの住む地域は、うるささ指数(W値)85以上。爆音でテレビの音がさえぎられたり、窓が振動したりするのは日常だ。夜間や早朝の騒音に「目を覚ますこともあった」。軍隊の特性から訓練の必要性に理解を示すも「夜の飛行はやめてほしい。住民の生活を守るべきだ」と訴える。

 自宅近くで保育園を経営する池原さんの同僚で、フィリピン出身の宮城マリコさん(50)=嘉手納町水釜=も原告の一人。結婚を機に日本国籍を取得したため、賠償を受けられる。20代で沖縄を訪れ、本島中部で暮らしてきた2人。国籍の違いで賠償が認められるかどうか判断が分かれる。「どちらも沖縄で同じ被害を受けている。賠償がないのはおかしい」と口をそろえた。

 控訴審で原告側弁護団は「(一審判決は)フィリピン法の理解を根本的に誤っている」と主張した。フィリピン国籍の原告へ賠償を認めた第4次厚木爆音訴訟の高裁判決を引用し、賠償を認めるよう求めた。厚木の高裁判決では、フィリピンの民法で国への賠償請求が認められており、外国人が被害者であった場合でも同様の請求ができると判断された。

 原告側弁護団は国賠法の相互保証主義を「いたずらに権利救済を困難にするばかりで無意味と言わざるを得ない。国際的な人権保障の観点からも不合理な結果を導きかねない」と批判する。

 保育園で多くの子どもの命を預かる池原さんは、低空飛行の米軍機を見る度に事故の不安を感じてきた。昼寝の時間には、爆音を紛らわすためラジオや音楽を流している。「命を守ることが一番大事」。そう何度も繰り返し、国には賠償よりも飛行の差し止めを優先することを求めた。
 (下地美夏子、安富智希)