【島人の目】9月に会いましょう


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 イタリアでは毎年7月にもなると、誰もがバカンス後の再会を期して「9月に会いましょう」と別れのあいさつを交わすようになる。夏の長期休暇というのはこの国では当然過ぎるほど当然のことである。

 長い人は1カ月の休みを取る。それ以上に長いバカンスを過ごす者もいるが、大多数のイタリア国民は2週間の有給休暇を取るのが常である。それは8月初めから20日ごろが多い。会社や工場などもこの期間は完全休業になる。
 ところが、時間差休暇というものがあり、時間に融通の利く仕事をしている人々の中には、休暇を前倒ししたり逆に遅らせる者が相当数いる。そうすると、どんな仕事でも相手あってのものだから、普通の期間に休暇を取る人々は休暇前や休暇後に相方不在の状況に陥って仕事の能率が落ちる。
 そこに長期休暇を取る人々の仕事の空白も加わって、7月から8月のイタリアは国中が総バカンス状態になってしまう。だから両月を飛び越して「9月に会いましょう」が国民の合言葉になるわけである。
 イタリアの前にロンドン、東京、ニューヨークで仕事をしてきた僕は、当初は仕事の能率の上がらないこの国の夏の状況にうんざりした。今は違う。これだけ休み、これだけのんびりしながらもイタリアは一級の富裕国である。日本などよりは豊かさの質がはるかに上だ。ということは、イタリア的に休みまくるのがいいことだ、とつくづく思うようになったのである。
(仲宗根雅則・イタリア在住、TVディレクター)