芸能・文化

大河の流れと共に

大河の流れと共に

著者:知念忠二
出版社:あけぼの出版
定価:3000円

 沖縄現代史は、日米両政府の政策とこれにあらがう沖縄民衆の闘いの相関関係をたどりながら歴史の骨格を浮き彫りにしようとするのが一般的だ。だが、1934年、伊江島の真謝に生まれた著者が、50年代の初めから十数年の時期を、自伝風に描いた500ページを超える同書は、具体的な個人の生きてきた軌跡を通して、歴史の流れを描き出すものといえる。

 52年(対日平和条約発効の年)9月、名護英語学校を卒業した著者は、キャンプ桑江の米陸軍沖縄地区工兵隊に就職する。当初は、劣悪な労働条件下の職場で失意の日を送るが、やがて学んだ英語を生かせる職場に移動し、心機一転前途に希望を持つ。
 ところが、たまたま休日に帰省した伊江島で、米軍の土地接収のための強制測量の現場に出くわす。著者は、居心地の良い職場で磨きをかけた英語を使って、強制測量に反対する阿波根昌鴻ら住民側の通訳をすることになる。それ以後、強制接収に抵抗し、琉球政府に陳情に押しかけ、沖縄中を「乞食行進」する真謝区民の同伴者として活動し、伊佐浜の土地取り上げ反対闘争にもかかわる。
 米軍の職場に身を置いた著者の行動は、当然米軍側に注目される。しかし、米軍は、いきなり彼を弾圧・パージしようとはしない。まずはスパイ組織のネットワークに取り込もうとする。当時の米軍の常套(じょうとう)手段だったのだろう。
 著者が米軍の職場を追われるのは、意を決して人民党に入党し、民連ブームの中での立法院選挙戦で活動している最中(58年3月)だった。その後、地域や労働現場での活動を経て人民党機関紙『人民』の記者としても活躍する。
 本に描かれた著者の生活と闘争の軌跡は、この時代を生きた多くの人々の人生と重なり合う部分が少なくないに違いない。この時代を生きた世代は、この本の中に懐かしい思い出にも似た、いくつもの新しい発見をするだろう。若い世代でも、この時代の歴史に多少の知識と関心を持っていれば、同書によってその知識をより豊かに肉付けすることができるはずだ。
 著者は現在も、数少なくなった反戦地主の一人である。
 (新崎盛暉・沖縄大学名誉教授)