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『沖縄戦 強制された「集団自決」』 丹念な分析で「真相」に迫る

 慶良間諸島で起きた「集団自決」の命令の有無をめぐって、元戦隊長らがノーベル賞作家の大江健三郎氏と、その著書を発行した岩波書店を提訴し、現在係争中であることは周知の通りである。この事件以来、文科省による教科書検定問題も絡み、「集団自決」に政治的様相が濃くなった感は否めない。

言い換えれば、歴史修正主義の理論に国家が与(くみ)し、「集団自決」の実相を歪曲(わいきょく)する動きが顕著だということである。
 今、私たち沖縄人に最も求められているのは、なぜ「集団自決」が起こったか、犠牲者の視点からその「真相」を究明することである。これまで、沖縄戦研究は高水準の域にあるといわれながらも、残念ながら「集団自決」の真相解明にまでは達しなかったように思う。しかし、この度、やっと待望の書が刊行された。
 米公文書館等で一級資料の発掘を重ね、戦争犯罪研究の第一人者として、これまで「集団自決」について多くの研究実績を積み上げてきた著者が、沖縄の地域ごとの特徴を凝視しつつ、日本軍と住民という支配、被支配の構図をベースに、「集団自決」に追い込まれていった背景や構造を徹底検証し、丹念な分析で「集団自決」の「真相」に迫った書を著したのである。
 著者は、証言者が異口同音に語ってきた「捕虜になることは恥」とか「米軍に捕まったら男は八つ裂きにされ、女は強姦(ごうかん)されてから殺される」など、住民の恐怖心を煽(あお)り「集団自決」へと追い込んでいった日本軍の言説の根拠を、具体的な資料を駆使して言及することにより、軍隊の駐屯する地域における「集団自決」の必然性を裏付けていった。その中には、1944年7月の「サイパン玉砕」以降、政府が意図的にメディアを通して米兵の「野獣性」についてのキャンペーンをはり、国民の恐怖心を煽っていったという、いわば「集団自決」の国家責任をも明確にした資料をふんだんに登場させている。
 著者は言う。「『集団自決』を決行させた決定的な要因は、やはり日本軍の存在と意思、特に死を強制する軍事的強制力の存在であった」と。本書に、そのすべての要因が網羅されている。
(宮城晴美・沖縄女性史家)

沖縄戦 強制された「集団自決」 (歴史文化ライブラリー)
林 博史
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