[28 三中通信隊暗号班(5)]敵弾の中、真部山めざす

刀のサヤ持ち突撃

 夜が明けてから全員出撃となったが、壕内に長友兵長と三中暗号班の玉城一昌さんが残された。暗号書を始末するための要員だ。このことは全員に「玉砕する」ことを覚悟させた。兵7人、学生12人の一団は真部山の尾根を目指して進んだ。

 米軍の偵察機はパイロットの顔が分かるほど低空で飛んで来る。偵察機に誘導されて海上からの砲弾が谷間に間断なく撃ち込まれた。目の前の伊江島は全島が火に燃え、黒煙が上がっている。

 時折銃弾が耳元をかすめる中、岩陰を探しながら頂上目指して進んだ。いつの間にか生徒だけが集まり一団となって行動するようになっていた。すでに兵隊たちは先に行き、取り残されている。

 「離れて動け!」だれかが叫ぶがまた集まり出す。そんなことを繰り返しているうちに、「やられたア」の声。耳をつんざくような弾の音が連続的に聞こえ、直径15センチほどの穴が周辺にいくつもあいた。

 前田泰弘さんは、その時夢中で頂上目指した。ふとわれに返って周囲を見ると岩陰に金城勇さんが座っている。「勇、どうした。やられたのか」と聞いたが、青ざめた表情の彼からは一言もなかった。負傷した様子はなかったが、前田さんの力では動かすこともできなかったので、そのまま残して、また一人で進んだ。

 頂上付近で暗号班と合流したが、生徒は島(旧姓・島袋)武久、新城治敏、国吉真康、久場兼吉の4隊員だけとなっていた。大城素傳、■保栄の2人をそれ以来見た者はいない。

 米軍は向こう側の斜面を頂上に向かって進んで来る。銃とてない前田さんらは手りゅう弾で応戦した。時間がどれくらいたったかは分からないが、戦況は一目で不利と分かるようになった。斜面を谷間に向かって下りていく兵隊たちが多くなってきたからだ。

 とうとう頂上付近に暗号班だけが取り残されたかっこうで戦闘している状況となった。覚悟したかのように徳丸春雄中尉が全員を集め、「全員で突撃する」と告げた。

 その時、武器のない前田さんら生徒に渡されたのは軍刀のサヤと肥後の守。竹ヤリさえもない。容赦なく降る米軍の銃弾に対して軍刀のサヤだけを武器に突撃することは、死んでいくことだけしか目的はなかった。

 突撃命令までの間も銃弾は襲って来た。突然、三中の同僚の1人が足を血だらけにしてはっている。またほかの2人も手足をやられた。手当てに向かおうとする前田さんに徳丸中尉の声が追って来た。「みんな死ぬんだから手当てはするな」

 「そうだ。どうせ死ぬんだ」と自分に言い聞かせるようにした前田さんは、遠く大宜味の方に目をやったが、故郷の山々は見えなかった。

 突然、徳丸中尉が立ち上がって「突撃」と叫ぶ。軍刀を振りかざして一気に斜面を駆け下りると、ほかの兵隊たちもそれに続いた。軍刀のサヤを片手にした前田さん、島さんも飛び出そうとした時、ものすごい音の至近弾。黒煙が舞い上がり機銃音がしばらくの間続いた。

 やがて何一つ聞こえない静寂。2人は飛び出すきっかけを失ったままぼう然と座り込んでいた。ただ目前に敵が現れた時の恐怖から、自決するための手りゅう弾を握る手だけは力が入っていた。

 その後の2人はやっとの思いで本隊に合流した。前田さんは「生粋の軍人で戦闘経験がある指揮官なら、あんな無謀な突撃はやらなかっただろう。教員出身だったから三中生の犠牲に責任を感じて死ぬしかないと判断したと思う」と言う。前田さんは今でも耳元をかすめる銃弾の音をぬぐい去ることはできない。

(「戦禍を掘る」取材班)

■はワ冠に「且」

1984年12月26日掲載

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