社会

【島人の目】悲劇を乗り越えて

 スティーブ・ロペスといえば映画「ソロイスト(一人の奏者―失われた夢)」(邦題・路上のソリスト)の原作者で、ロサンゼルスタイムズのトップ・コラムニストの一人である。ロサンゼルス地域の底辺に生きる人々の根性物語を描く人情コラムニストだが、最近「元マリーン(海兵隊)兵、人のために走る」のコラムが注目を浴びた。

 フィリピン生まれのマーヴィン・ローハスは13歳の時、弟妹の将来、「より良き社会」を目指して家族でアメリカに移住、カリフォルニア州オレンジ郡に住居を構えた。地元の高校を卒業、ゴールデンウエスト・カレッジへ進み、将来警察官か教員を夢見て「犯罪学」を勉強した。
 しかし、2001年9月の米中枢同時テロによる攻撃以来、彼はアメリカに忠誠を尽くしたいと考えマリーンに入隊。03年にイラクに派遣され任務に就いたが、翌年にシリア国境付近のパトロール中に敵兵の攻撃に遭い左手の付け根から吹き飛ばされた。肩、左あごの一部も失った。同僚の二人は即死であった。ドイツの軍病院に運ばれ、そしてワシントンDCに移送されたが、無意識状態が続いた。気がついた時の自分の姿の醜さに連日泣いた。21歳の時であった。
 しかし、もっとひどい傷を負っていた軍人の言葉が彼を勇気付けた。「前向きに生き、再生を計るのだ」。それが彼の決意であった。
 6年の歳月が流れ彼は27歳、体を鍛えるためにマラソンを始めた。教会で障害のある人たちの相談に乗ったり、かたや午後から夜にかけてCalifornia State大フラートン校で勉学に励み、あと1年で卒業だ。卒業後は教員として、アメリカと世界史を高校で教える計画をしている。
 彼のガールフレンドは「環境の犠牲のまま生涯を終えるつもりはないと彼に教わったわ」と、悲劇を乗り越えて人のために生きるマーヴィンの態度にひかれる、という。
 漫画家の水木しげるさんも大戦で左腕を失ったが、それを乗り越えた。どのような環境におかれてもポジティブに生きる意欲がいかに大切かを教えてくれる物語だ。
(当銘貞夫ロサンゼルス通信員)



琉球新報