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『日米密約・裁かれない米兵犯罪』 裁判権放棄の全容を解明

 日米安保条約には絶えず「秘密」がつきまとう。外務省密約問題調査報告書が明らかにした「核持ち込み密約」などはそのひとつであるが密約はそれにとどまらない。
 本書はもうひとつの密約疑惑「第一次裁判権の放棄」を追ったものである。日米地位協定は、公務外の米兵犯罪につき、日本が第一次的に刑事裁判権を行使することを定めている。

しかし、新原昭治は20年前にアメリカの公文書を調査する中で、アメリカの公文書に「著しく重要な意味をもつものでないかぎり、(日本は)第一次裁判権を放棄する」との密約の存在を推測させる一文が存することを指摘していた。
 本書は、その疑惑を追い、ルポ風に平易な文章で多角的な視点から「密約」の存在を論証している。実に説得力に満ちている。目を見張るのは、米軍駐留における裁判権問題の本質、すなわち派遣国アメリカが海外に軍隊を展開する上で、いかに裁判権問題を重視していたかをNATOの例を紹介しながら位置付け、その中で「第一次裁判権放棄」密約問題の全容を解明している点である。
 「第一次裁判権放棄」密約の存在を裏付け、それが単なる過去の問題としてだけでなく、現在もその密約に沿った米兵犯罪の処理が行われている実態を浮き彫りにしている。ストレートに「裁判権放棄」として表れるだけでなく、米軍・基地という厚い壁の前で犯罪捜査への障害、不起訴判断等を介して、裁判権放棄密約が実質的に機能していると指摘した点は、貴重である。裁判権問題は、受け入れ国日本にとっても、被害者の権利、国家の主権にかかわる重要な基本問題である。裁判権問題を軍事的考慮から解放し、純粋に被疑者・被告人となる米兵の権利問題、そして被害者の処罰請求権、受け入れ国の社会秩序の問題、すなわち市民の視点で考えることの重要性を示唆するものだ。どのようにして、裁判権問題を軍事的考慮から解き放つのか、日米地位協定の改定を求める運動側の今後の課題といえよう。日米地位協定の改定交渉が政治的課題となっている時期だけに、多くの方に手にとってもらいたい本である。
(新垣勉・弁護士)


日米密約 裁かれない米兵犯罪
布施 祐仁
岩波書店
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