政治

【特別評論・「方便」発言が問うもの】検証すべきは「抑止力」 政局の陰で埋没する核心

 米軍普天間飛行場の県内移設の理由に挙げた「抑止力」について、鳩山由紀夫前首相が「方便だった」と証言した波紋が、本質からずれる形で広がっている。抑止力の虚構性など、追及されるべき大事な論点が、中央政局の陰で埋没する本末転倒の状況が続いている。
 名護市辺野古への移設を譲らない米側に屈し、県民や国民に説明できないため、方便を用いて県内移設の理屈を繰り出した―。政治主導を掲げた前首相のあっけない挫折劇の実態を知った県民の間で、怒りと失望が再び噴き出しているのは当然のことだ。
 その一方で「やはり、そうだったか」と冷静に受け止めた人も多いだろう。鳩山証言を今後の基地問題の反転攻勢にどう生かすのか。沖縄社会に突き付けられた重い課題でもある。
 国会での論戦や在京大手メディアの報じ方の大勢は、失言、放言の類いとみなし、鳩山氏個人の資質問題に矮小(わいしょう)化しているように映る。民主党内の抗争と絡め、またしても普天間問題が「政争の具」と化した。
 再確認しておきたい。鳩山証言が照らし出した核心は(1)沖縄に新たな海兵隊航空基地を押し付ける論拠にした「抑止力」は虚構(2)公約に掲げた「県外移設」実現を目指したが、自らの戦略、指導力の弱さを突かれ、対米追従を断ち切れない閣僚と官僚支配の軍門に下った構図(3)沖縄に基地を押し付ける差別的構造の温存―であろう。
 名護市辺野古への移設を再確認し、菅直人首相が踏襲した日米合意の正当性はもはや、地に落ちている。
 この三つの核心は軍事優先に傾く日本の統治機構の危うさに直結する。徹底的に膿(うみ)を出すべきだが、その動きは弱過ぎる。「方便」発言を追及されている菅首相や枝野幸男官房長官の国会答弁は、官僚が作ったメモに頼り切りだ。
 「在沖海兵隊を含む在日米軍全体」と位置付けることでしか「抑止力」を説明できず、海兵隊抜きならどれほど損なわれるのか、誰も具体的に言おうとしない。「抑止力」の根拠の希薄さの裏返しである。官僚支配の病弊が色濃く漂う第2幕が紡がれている。
 国の最高権力者の回顧は、虚栄心やプライドが災いし、当事者に都合良く描かれることが多い。言葉の軽さはあったにせよ、鳩山氏の証言に偽りはない。退陣に追い込まれた鳩山包囲網の内幕を、わずか8カ月後に明かしたのは前代未聞だ。
 「県外移設」を期待した県民を裏切ったことへの反省と謝罪の意を基に、鳩山氏は驚くほど赤裸々に証言した。その内容は真実性、迫真性に富む。日本の戦後政治史に刻まれる首相経験者の告白と言っていい。
 沖縄はもうだまされないという意志を強固にした点で、鳩山証言の意義は極めて大きい。海兵隊の抑止力が虚飾に彩られていることをしっかり国内外にアピールし、普天間の県外移設を切望する沖縄の声を一層明確に打ち出す好機到来と位置付けたい。沖縄の知恵、戦略も問われている。
(松元剛・琉球新報政治部長)