政治

在沖海兵隊抑止力 ピースデポ特別顧問 梅林宏道氏に聞く

梅林宏道氏=2日、横浜市のピースデポ事務所

 【東京】鳩山由紀夫前首相の発言でその内実に再び注目が集まった海兵隊の「抑止力」。だが政府は正面から議論せず、東アジア情勢の不安定さから逆に海兵隊の沖縄駐留の必要論を強める。NPO法人ピースデポの梅林宏道特別顧問に「抑止論」の内実を聞いた。(聞き手・滝本匠)

 ―抑止力をどう考える。
 「この地域は平和外交の仕組みではなく軍事的拡張で均衡を保っている。米軍の『抑止力』があるからこそ北朝鮮の核武装を生み出した。地域を不安定にさせているのが抑止力だ」
 ―政府は東アジアの安保環境を理由に在日米軍や在沖海兵隊の抑止力を議論している。
 「『抑止』と『戦争』は違う。抑止が破れた時戦争になるが、政府は混同させている。抑止が破れた時沖縄の海兵隊が必要なのかはまた後の議論だ」
 ―では戦争前の抑止は。
 「抑止論に立つとしても、海兵隊の抑止の対象として意味があるのは北朝鮮しかない。しかし朝鮮有事の抑止力として海兵隊の果たす役割はゼロだ。朝鮮半島では延坪島(ヨンピョンド)砲撃のような局地事態は今後もあるかもしれないが全面戦争に至る行為ではない。北朝鮮が全面戦争を抑止されているとすれば、遠距離からピンポイントで北朝鮮の軍事機能を攻撃できる力と核兵器を米国が確実に持っていることによる。決して海兵隊がいることで全面戦争を思いとどまる抑止が働くことはない」
 ―中国軍の動向を挙げる声も多いが。
 「中国にとって海兵隊の存在が、米国に敵対する軍事行動を起こすかどうかの判断基準になることはない。台湾海峡有事は中距離ミサイルと航空戦力の問題で海兵隊の出番は考えられない。中国海軍の聖域にしないために公海の自由を確保し、それによる航空機とミサイル攻撃、防空体制が基本的な米軍の抑止体制で、海兵隊は関係ない」
 ―では抑止が破れた時の海兵隊の役割としては。
 「朝鮮半島でいざ全面戦争になった時の米軍の戦争計画はOPLAN5027と呼ばれ、海兵隊をどう活用するかのシナリオはたくさんある。しかも時代とともに更新されているが、私の分析では海兵隊の役割はどんどん減っている」
 ―なぜ減っているのか。
 「北朝鮮の短中距離ミサイル能力が向上して精度が上がっているからだ。シナリオでは北朝鮮の東西海岸から海兵隊上陸部隊を送り込み、本来の水陸両用作戦を展開するものだが、北朝鮮のミサイルは沿岸の艦船への攻撃能力が高くなっており、ゲーツ米国防長官も最近言っているように、かつてのように沖に揚陸艦を配置して上陸作戦を遂行するのは考えにくい」
 ―日本の抑止力とは。
 「抑止力について、米国内に考え方の変化の兆しがあることに注目すべきだ。4年ごとの米国防戦略見直し(QDR)でもうたっているように、軍事だけでなく経済、文化など非軍事抑止を含む全政府的アプローチの抑止力の概念が登場している。日本は憲法にのっとった抑止の考え方に移行することを正面きって米国に提案すべきチャンスだ。時間はかかるが、米側との関係も壊さずに中国ともっと親密に安保議論を行うなど長期ビジョンを持ちながら進めるべきだ。沖縄の海兵隊問題はその第一歩だ。新たな基地という発想はそこからは出てこない」
 ―沖縄側にできることは。
 「冷静に世論をつくって政府の説明がおかしいと反論し、拒否すべきは拒否していくことが大事だ」