芸能・文化

『仙台ぐらし』 心の地へのパスポート

仙台ぐらし

 仙台は田舎すぎず、都会すぎない。離れてみてわかることだが、気候にしろ何にしろ、暮らすのにはなんとも程よい町なのだ。言い換えれば、特徴があるようでない、それが一番の特徴か。そんな町に、押しも押されもせぬベストセラー作家の伊坂幸太郎氏が、堂々とどころか、むしろひっそりこっそりと暮らしている。

 「すぎない」程よい町だと思っていた仙台だが、伊坂氏にとっては「すぎる」ことがたくさんある町らしい。このエッセイ集は、震災前に書かれた伊坂氏にとっての10の「多すぎる」話と、震災以降に書かれた書き下ろし小説がメーンとなっている。連載されていた地域誌『仙台学』の存在は恥ずかしながら今回初めて知った。刊行している「荒蝦夷」という出版社は私の実家からほど遠くない場所に存在している。知らなかったくせに、なんだか誇らしい気分だ。
 伊坂幸太郎という人気作家の、愛すべき意外な素顔にニヤリとすることの多いこの作品集。仙台暮らしの経験がある方なら、さらに仙台の「あるあるネタ」が加わり、ニヤリズムは倍増する。
 だが「あるある」と言っても、誰もがわかるネタでないのがニクイところだ。個人的にはササニシキアイスのくだり。一気に十数年前の仙台に引き戻され、懐かしむと同時に、3月11日以降明らかに何かが変わってしまったかの地に思いをはせる。
 この中で2回にわたり書かれている「心配事が多すぎる」伊坂氏の素顔。その心配事は震災をモチーフにした書き下ろしの中で、独特のユーモアと人間描写で表現されている。なるほど「心配することが僕の役割」という意味が分かる。それと同時に「これだけ心配している人がいるのだから、もう何も起こらないかもしれない」といういじらしい願い。切なさと温かさがあふれているこの作品は、氏の望む通り普遍的なものとなるだろう。
 仙台をめぐる小さな話の集合体は、読み手それぞれの心の地へのパスポートかもしれない。その証拠に、これを読み終えた私は、故郷へ帰る航空券を予約している。
 (今木ともこ・NPO沖縄シニアの会事務局長)
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 いさか・こうたろう 1971年千葉県生まれ。作家。東北大法学部卒。「アヒルと鴨とコインロッカー」(吉川英治文学新人賞)、「ゴールデンスランバー」(山本周五郎賞)など著書多数。宮城県仙台市在住。