芸能・文化

『写真集 命のゆりかご 瀬戸内の多様な生態系』 自然の驚異への共感

『写真集 命のゆりかご 瀬戸内の多様な生態系』中国新聞社刊 中国新聞社・1850円

 海が被写体の水中撮影は、粘り強い根気と旺盛な好奇心、そして徹底した自己管理を求められると言える。

 生命誕生から35億年。海中生物は進化の過程でいくつもの奇跡を経て、今日まで命をつないできた。どの生きものも危険が隣り合わせの海の中で懸命に生きている。そんな一筋縄ではいかない生きものが被写体だけに、当然ながら思うように事は進まない。何者をも拒み続けるもう一つの宇宙が相手なのだ。
 本書は中国新聞紙上に41回掲載された大型連載をまとめた。まさに奇跡に近い瞬間を的確に捉えており、高度な撮影技術と忍耐に敬服するばかりだ。テーマに肉薄した写真作品と鋭く切り込んだ筆致がどれほど読者の期待を高め、自然の驚異に共感させたか。地元ダイバーや研究者、漁業関係者からの情報も不可欠だっただろう。
 早春には、生まれたばかりの稚魚たちが、外敵から逃れるように海藻の森に身を潜め、ときに集団で元気よく海藻の合間を群れ泳ぐ。周防大島町で撮影されたメバルの稚魚の群れは圧巻である。海藻が稚魚を育む海の森と言われるゆえんが、1枚の作品の中に凝縮されている。
 その海藻を食べながら移動するアイゴの幼魚の群れ(大竹市)にも目を奪われた。カメラの間近を横切るアイゴの幼魚には危機感が感じられない。カメラマンが海の生きものの一部と化し、幼魚に畏敬の念を抱きながら静かにシャッターを切った様が目に浮かぶ。
 瀬戸内に今も受け継がれる素朴な漁法に焦点を当てたのも、この連載に幅を持たせ、瀬戸内の豊饒(ほうじょう)を伝えている。イカ籠漁の仕掛けの中を泳ぐコウイカ(呉市)やおとり近くでもりが捕らえたクロダイ(江田島市)は、初めて目にする光景だった。
 全国津々浦々、まだまだ知られていない日本人の食文化や伝統漁法が、しっかりと受け継がれていることを知らされた。と同時に、瀬戸内の海を今以上に汚してはならないという、強いメッセージも伝わってくる。
(中村征夫・水中写真家)



命のゆりかご―瀬戸内の多様な生態系
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