『ザ・チーム』 日本再生の提言書


社会
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『ザ・チーム』齋藤ウイリアム浩幸著 日経BP・1600円

 世界中がいま注目する知的エリートが書いた日本再生の激辛の提言書である。
 発売と同時に版を重ねるベストセラー本。その著者が、沖縄2世。琉球大学教授で料理家の故・翁長君代さんの孫である。

 経歴だけでも、読み手は深みにはまる。米国生まれで、小学生で中学3年の数学をマスターし、パソコンオタクになり、10代は飛び級で大学に進学。医学部を卒業しながら、医者にはならず、IT企業を創業するも大失敗。再挑戦で「指紋認証システム」を開発、成功するも不況で会社をマイクロソフトに売却。巨額の富を手にドバイなど3カ国に投資会社を展開。日米はじめ十数カ国の政府の顧問、アドバイザーを務める。
 交友関係もすさまじい。マイクロソフトのビル・ゲイツ、ピーター・ドラッカーなど。必要ならメールを出し、会いに行く。その交友関係が、失敗を成功に導くカギにもなる。
 本題の「チーム」について、著者は「日本には伝統的な組織、グループはあるが、チームがない」と冒頭から指摘し、弱体化する日本の再生に「チーム」の必要性を説く。日本型の組織・グループは同種・同発想・同経歴・同意見のメンバーがそろい、リスクを嫌い、失敗を恐れ、例外に対応できない。一方でチームは失敗を恐れず、リスクを引き受け、危機感を共有し、全員がオーナーシップを持ち、イノベーションとアントレプレナーシップの土壌となる。
 チーム論の核心は「イノベーションを加速する世界で個人、企業、国家が生き延びるには、異質な価値観、異質な才能、異質な文化を持つ人がチームを組んで、共通の目的のために助け合うことが絶対条件」という。
 グループとチームの違いを理解するのに、グループ中心の日本が得意とする改善を積み重ねる「漸進的イノベーション」と、チーム型の米国が得意とする全く異なる製品を新たに生み出す「破壊的イノベーション」の比較も分かりやすい。
 意見の不一致、議論を呼び起こす問題発言、異端児の存在、異論・反対意見の重要性、ダイバーシティー(多様性)に対する認識が、確かに日本に不足していることに気づく。
 「計画されない人生を創造的に生きる」。世界を暴れまくる知的エリートの神髄を堪能できる好著である。
 (前泊博盛・沖縄国際大学経済学部教授)
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 さいとう・ウィリアム・ひろゆき 1971年ロサンゼルス生まれの日系2世。カリフォルニア大学医学部卒業。高校時代にI/Oソフトウェアを設立。生体認識番号システムの開発で成功。2004年、会社をマイクロソフトに売却。日本でベンチャー支援のインテカーを設立。

ザ・チーム (日本の一番大きな問題を解く)
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