『シランフーナーの暴力』 知らんふりする日本人


社会
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『シランフーナーの暴力』知念ウシ著 未來社・2200円+税

 本書は、植民地主義を克服し、沖縄と日本の対等な関係の築き直しを訴えてきた著者の20年余にわたる著述・発言集である。日本が米軍基地を沖縄に押し付けて知らんふりをしている「シランフーナーの暴力」を主題とし、「政治発言集」と明確に位置付けているところから、前作『ウシがゆく』よりも、意識して日本人に向けた書と思える。

 日本人読者としては、苦しくなる本だ。歴史的な植民者としての立場性を背負いながら、現在進行形の沖縄差別の一端を担う現実を突き付けられる。本書で指摘される「沖縄大好き」「癒やされる」「沖縄病」「連帯」といった現象の中にある植民地主義は、自分にも当てはまる。しかし、自らの苦しみや迷いも隠さず率直に語り掛けてくる著者の前では、読む方も素直に自分に向き合えると感じた。
 本書は当初、『無知という暴力』というタイトルだったが、著者は次第に、日本人は「知っているのに知らないふりをしているのではないか」と思うようになったという。「安保条約を成立させている以上、負うべき自分たちの恥を沖縄人に押し付け、沖縄の恥にして、あとはシランフーナー(知らんふり)。そうやって安保を維持してきたのではないか」(39ページ)と。
 そして背後には、沖縄の味方を装いつつ沖縄を食い物にする「確信犯」さえいるのだ(119ページ)。「無意識の植民地主義」(野村浩也)からこの意識的搾取まで、日本人はつくられた優劣構造をさまざまな形でむさぼり、暴力に参加してきたことが本書を通じてあぶり出される。
 通読して思うに、いま日本人がするべきことは、沖縄を理解すること以上に、沖縄を迫害してきた自国を理解し、責任を取ることではないか。平等を回復するためには沖縄に不当に集中している基地を日本が引き取るべきだ、という著者の主張は当然である。日本が置くと同意した外国基地は、置くことを許している限り日本に置くべきであり、沖縄ではない。他者を踏み付けながら生きる道に決別し、平等で自由な関係になろう、との本書の呼び掛けに、日本人は応える責務がある。
 (乗松聡子・ピース・フィロソフィー・センター代表)
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 ちにん・うしぃ 1966年、那覇市首里生まれ。津田塾大学学芸学部国際関係学科、東京大学法学部私法学科卒。国際関係論・沖縄近代史専攻。むぬかちゃー(ライター)

シランフーナー(知らんふり)の暴力: 知念ウシ政治発言集
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