『写真絵本「ヤンバルクイナ」』 絶滅危機 保護訴える


社会
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『写真絵本「ヤンバルクイナ」』江口欣照著 小学館・1300円+税

 東京在住の自然写真家江口欣照氏が、世界中で唯一、沖縄の山原にしか生息していないヤンバルクイナに対する思いの丈をつづった写真集を出版した。内容は理解しやすい平易な文章と豊富な写真で構成され、老若男女多くの人々に絶滅の危機に直面しているヤンバルクイナの現状とその保護を訴えている。

 日本写真家協会(JPS)会員である江口氏が十数年の歳月を費やして撮影した写真は迫力がありヤンバルクイナの生態を見事に捉えている。子育ての写真を見詰めていると、子を思う親の心情と慈愛に満ちた行動が心に響く。親の子に対する愛情は人間とヤンバルクイナ共通であることを痛感させられる。
 私もヤンバルクイナをテーマに数年間撮影を続けているが、特に夏場夜間の撮影はハブなどの危険との戦いでもある。筆者は撮影を開始した当初はヤンバルクイナの生態に関する知識は乏しかったものの、持てる技術を最大限に駆使し、失敗を繰り返しながら努力を続けた結果、多くの感動場面を撮影できた。
 れき死したヤンバルクイナの写真は見ていて痛々しい。私自身、夜間の撮影中、片足が折れて側溝内で動けないヤンバルクイナを発見し、NPO法人どうぶつたちの病院に電話連絡して引き取りに来てもらった経験がある。
 筆者がヤンバルクイナの悲劇と称するマングースや野良猫、開発による森の減少、交通事故は全て人間の責任で発生している。特に早朝、本島北部地区を走行するドライバーは、ヤンバルクイナが路上に出没することを念頭に極力スピードを控え目に走行してほしい。
 国の天然記念物に指定されているヤンバルクイナは環境省のレッドリストで絶滅危惧種にも指定されている。現在ヤンバルクイナの生息数は約1500羽と回復傾向にあるという。世界中で沖縄にしかいない飛べない鳥ヤンバルクイナを絶滅から守りたいとの切なる思いから出版されたこの写真集を、家庭や学校、公立図書館などに置き、多くの人々に読んでもらいたいと切望する次第である。
(吉直新一郎・県写真協会会員)
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 えぐち・よしてる 1962年東京生まれ。東京都府中市在住。自然写真家。日本写真家協会(JPS)会員。写真製版会社に勤務した後、フリーの写真家として独立。野鳥や動物をメーンに撮影し、教材、広告、書籍などに発表している。