対馬丸事件学ぶ重要性指摘 大城立裕氏と佐藤優氏対談


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 「対馬丸事件から70年、祈念対談 今、伝え継ぐ対馬丸」(対馬丸70年祈念対談実行委員会主催、琉球新報社・那覇市教育委員会共催)が23日、那覇市民会館で開かれた。芥川賞作家で新作組踊「海鳴りの彼方~対馬丸の子ら~」作者の大城立裕さんと、作家で元外交官の佐藤優さんが対談した。高校生ら約1200人が訪れた。2人は対馬丸撃沈や沖縄の歴史文化を学ぶことの重要性を強調した。

 生存者を取材し、経緯と証言をまとめた「悪石島」を1961年に刊行した大城さんは「対馬丸は行くも地獄、残るも地獄だった。沖縄近海に敵の潜水艦がいるという情報は広がっていた。しかし、手元に置いておくと戦場に巻き込まれることになる。親はそこを迷った」と説明。撃沈について語ってはいけないとかん口令が敷かれたことを「子どもにとって最も残酷だったことの一つ」と話した。
 ほかにも沖縄戦を題材にした小説や戯曲を書いてきた大城さんは「何がいいのか分からないジレンマを抱え、生き抜かなければならないのが戦争の悲劇だ」と語った。
 その上で「対馬丸撃沈事件をただ悲しい、むごたらしいではなく、これからの歴史にどう生かすかが重要だ」と述べた。
 佐藤さんは対馬丸撃沈や沖縄戦の犠牲、過重な基地負担を挙げ、「なぜ沖縄だけ犠牲を払わないといけないのか。構造化された差別がそこにはある」と指摘した。
 久米島出身の母が戦争体験の全体像を亡くなる3年前に語ったことから「一人一人に語り尽くせない物語がある。試験に出る歴史ではなく一人一人の中にある歴史を学んでほしい」と望んだ。
 対談を聞いた與那嶺志織さん(16)=沖縄尚学高校2年=は「対馬丸のことを話すのを禁じられていたことは知らなかった。体験を話してくれている人に感謝したい」と話した。
 光田結花さん(16)=同=は「自分たちの歴史、文化について考えた。引き継いでいかないといけない」と述べた。

佐藤優さん、大城立裕さん
大城さん、佐藤さんの話を聞く来場者=23日、那覇市民会館