錦織圭の見ている世界をもっと 良い解説、残念な解説


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▼「圭は11歳の時からそうなんですが、サーブで体が開いてしまう癖があるんです。開かないように開かないように練習してきているんですが…」。11月11日の錦織圭選手対ロジャー・フェデラー戦、松岡修造さんの解説の一コマである。

男子テニス年間成績上位8人による今季最終戦『ATPツアー・ファイナル』(英・ロンドン)に、世界ランク5位にまで上ってきた錦織選手が初出場。彼が見て感じている世界に少しでも近づきたい視聴者としては、解説を一言も聞き漏らしたくない。
 松岡さんの解説は具体的でよく伝わる。トップ選手とわたり合った経験や、長年のジュニア選手への指導をうまく結びつけていることが伺えるし、著書によればテレビショッピングなどの番組を集中的に見て、どうすれば情報がよく伝わるのかを研究したこともあるそうだ。
 熱さで知られる松岡さんだが、静かな口調でも独自の抑揚とテンポがあり、視聴者の体温をポッと高くするようなコメントをはさむのもうまい。
「私はたくさんのテニス選手を見てきていますが、天才だと思うのは2人しかいないんです。1人はこのロジャー・フェデラー、もう1人が錦織圭なんです」

▼質の高いスポーツ解説(及び実況)は、持続的なファンや競技者を生み増やす力がある。逆にいえば質が低い解説は、その機会をみすみす逸しているのだから重大だ。
サッカーでは、名波浩さん(9月にジュビロ磐田の監督に就任)の解説が歴代1位といっていい充実ぶりだった。試合経過時間と戦況、選手の体力、心境などはもちろんのこと、特段の意図なく出されたように見える平凡なパスでも、実は意図が隠されているのなら、それを見抜いて伝えていた。
名波さんが中心選手だった時代のジュビロは黄金期で、他チームが「ジュビロのパス回しはおかしい」と嘆息をもらすほど有機的で流動的で躍動するサッカーだった。あの高みに到達した人でなければ察知できない領域を、場面に応じて言葉にしてくれるのだから、橋渡し役としてこの上なかった。

▼一方、『世界バレー女子イタリア大会』(9~10月)の中継はもったいなかった。真鍋政義監督の新戦術「ハイブリッド6」という言葉自体は、試合中に何度もアナウンサーが口にしたが、それが一体どのような戦術であり、体格では上回る他国のチームをどう混乱させるのか。放送中の試合では駆使されているのか、機能していないのか。機能していないのなら、それはどこを見ることで分かるのか。もっと触れてくれていたら、バレーボールに詳しくない視聴者にも現在の日本代表の見どころがみずみずしく伝わったに違いない。解説者は解説業を始めてまだ間もないから仕方がないのだが、長く日本代表のセッターを担ってきた方だけに、その経験と知見をアナウンサーがもっと引き出してほしかった。今後に期待します。

▼さて、テニスの錦織選手が準決勝進出を懸けて戦うミロシュ・ラオニッチ選手との試合が今夜(13日)に迫ってまいりました。先日の錦織―フェデラー戦では、松岡さんの解説で1回だけモヤモヤいたしました。それは下記です。
「これはテニス選手じゃないと分からないんですが、今、2人はものすごい駆け引きをしています」
 そこでやめんのか? やめんなよ、もっとできるはずだろ。と修造口調で思いましたので今夜は何とぞよろしくお願いします。
 (宮崎晃の「瀕死に効くエンタメ」=共同通信記者)
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宮崎晃のプロフィル
 みやざき・あきら 共同通信社記者。2008年、Mr.マリックの指導によりスプーン曲げに1回で成功。人生どんなに窮地に立たされても、エンタメとユーモアが救ってくれるはず。このシリーズは、気の小ささから、しょっちゅう瀕死の男が、エンタメ接種を受けては書くコラム。
(共同通信)

テニスATPファイナルでロジャー・フェデラーと対戦する錦織圭=ロンドン(共同)
宮崎晃