『追跡・沖縄の枯れ葉剤』 米国防省のウソの壁突き崩す


社会
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『追跡・沖縄の枯れ葉剤』ジョン・ミッチェル著 阿部小涼訳 高文研・1800円

 ことしはベトナム戦終結から40年、沖縄戦が終わって70年の節目の年。米軍の枯れ葉剤問題で、米国防省が築いた「ウソの壁」が突き崩される可能性がある。
 この本の著者の地道な調査報道によって明らかにされた「沖縄の枯れ葉剤」問題についても、国防省が認めざるを得ない決定的な証拠が出てくる可能性がある。

 常識からすれば、著者の調査報道によって明らかになった公文書や元米兵たちの証言の数々は、十分な証拠といえるが、国防省は頑強に枯れ葉剤の備蓄・使用を否定している。被ばくした元米兵の表現を借りると「ウソの壁」を築いている。
 著者は、米軍が山原の除草にエージェント・オレンジを使ったという記事を手掛かりに2010年、東村高江を訪れて以来、本格的な調査報道に取り組んでいる。
 公的な医療費を打ち切られることを心配して、取材を断っていた元米兵たちも著者の誠実さと真実を追究していく姿勢に共感、協力するようになった。米国の公的な機関内部でも協力者が出てきた。
 著者の調査はベトナムやベトナム戦争の支援拠点になったグアムなどにも広がる。枯れ葉剤究明のネットワークができあがった。米国の公的な機関の調査報告書や各国メディアの報道に著者の記事が数多く引用されている。
 枯れ葉剤の問題は、現在進行形である。沖縄では、ドラム缶が次々発掘されている。河村雅美さんや沖縄・生物多様性市民ネットワークの取り組みが続けられている。
 ウソの壁の背後には、枯れ葉剤の使用が非人間的な行為であることと、将来、膨大な賠償金を支払わなければならなくなるという、米国政府にとって不都合な真実が隠されているからだ。沖縄の私たちには、できれば知りたくない真実ではあるが、著者も指摘しているように、元軍従業員を含め県民対象の疫学調査が必要だ。
 翻訳も自然で読みやすい。(高嶺朝一・元新聞記者)
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 ジョン・ミッチェル 1974年ウェールズ生まれ、ジャーナリスト。98年に来日以降、平和運動、人権問題、基地汚染問題などを取材、「ジャパン・タイムス」などを中心に発表。
 あべ・こすず 琉球大学教授。

追跡・沖縄の枯れ葉剤
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