『バベルの学校』 このクラスの存在がフランスの希望だ


社会
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 パリの連続テロ事件後に本作を観た。移民大国のフランスで、彼らが共存できる社会を目指して尽力している本作に登場するような人たちの心情を思うと、本当に胸が痛い。
 パリ市内にある中学校の適応クラスに1年間密着したドキュメンタリーだ。適応クラスとは、様々な事情で国元を離れてフランスにやってきたものの、フランス語が学業レベルに達しておらず、集中的にトレーニングを受ける必要のある生徒たちが集まっている。

 国籍も人種も多様で、最初は差別的な発言で相手を傷つけたり、新生活になじめぬストレスを他者にぶつけたりする子もいる。そんな彼らが、心に寄り添うようにサポートする教師の指導を受け、互いの境遇を理解していくうちに、クラスが一つにまとまっていく軌跡を丁寧に追っている。こういう試みをしているのになぜ?と思うと同時に、このクラスの存在がフランスの希望にも思えた。
 このクラスは社会の、いや、世界の縮図といってもいい。政治亡命や不況など、いずれにしても親の事情でパリに来た子供たちばかりだが、中にはセネガルの少女のように、女性器の切除という風習から逃れるために来た子も。彼女たちは、親が自分の将来を考えての決断だと理解している。だから家ではきっと不平も言えないのだろう。やり場のない感情を教室でぶつける姿がいじらしい。
 フランスでは本作や『パリ20区、僕たちのクラス』のように教育現場にカメラが入る作品が非常に多い。しかも、いずれも傑作。相互の理解あってこそだが、子供が置かれている環境を理解する上でも、日本でも同様の試みができないものだろうか。★★★★★(中山治美)

 【データ】
監督:ジュリー・ベルトゥチェリ
編集:ジョジアンヌ・ザルドーヤ
出演:パリ市内の適応クラスの中学生たち
1月31日(土)から東京の新宿武蔵野館、渋谷アップリンク、全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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