俳優の内面を重視しない演技 ももクロで『幕が上がる』?


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▼ももいろクローバーZが主演した公開中の青春映画『幕が上がる』(本広克行監督)をきっかけに、演劇に興味を持った方がいたら、原作者であり劇作家・演出家の平田オリザ(劇団「青年団」主宰)の仕事について知ることを勧める。平田は、俳優が内面心理をつくって演じる必要はないと考え、「俳優は僕にとって将棋の駒」と言い切る。

▼役の内面を掘り下げ、役が「悲しい」なら俳優も悲しい感情になって演じる手法は、ロシアのスタニスラフスキーが100年余り前に編み出した。米国に伝わるとメソッドと呼ばれ、ロバート・デニーロなど名優と呼ばれる多くの役者たちが実践してきた。

▼一方、平田は「今の(せりふとせりふの間を)0.3秒遅らせて」「もうちょっとトーンを上げて」などと指示し、精密に自動的に演じられるぐらいになるまで、何度も何度も俳優に同じ場面を繰り返させる。約25年前からこれを実践している平田は、約5年前からは石黒浩・大阪大教授と組んで、ロボットと人間が共演するアンドロイド演劇も行っている。
 とっつきにくいと思った方もいるかもしれないが、小津安二郎の映画を楽しめる人は、たいてい大丈夫だ。

▼では、平田のもとで演じる俳優は、果たして楽しいのだろうか?と思った方は、想田和弘監督が平田と青年団を観察し続けたドキュメンタリー映画『演劇1 演劇2』がDVDになっているので、ぜひご覧ください。合わせて5時間42分もあるが、始まったら目が離せなくなる。(注1)
 映画やテレビでも活躍中の俳優古館寛治は、1990年代に米ニューヨークでメソッド演技を学んだが、帰国後、平田の代表作『東京ノート』の公演を見て「こんな芝居があるのか」と驚き、青年団に入った。対極へ移ったため古館は、平田について想田から聞かれると、複雑な思いで身もだえる。(本編とは別の特典ディスクに収録)
 つい本音を言ってしまうと語る彼に、想田が笑いながら「演じればいいじゃないですか」と返す。すると古館が言う。「俳優っていうのは、ウソをつけない人間が一番向いているんですよ。ウソをつける人間は演技をやったらみんなウソついちゃうんですよ。ウソくさい演技しか出てこない」

▼さて、平田はあるトークイベント(注2)で『幕が上がる』に触れて「この映画で高校生たちに一大演劇ブームが起きる予定なので…」と冗談ぽく語り、聴衆がドッと笑った。実際には平田の悲願だと推察するが、今の日本では「演劇がブームになる」というのは冗談として立派に通用してしまう。(敬称略)
(宮崎晃の「瀕死に効くエンタメ」=共同通信記者)

(※注1)映画『演劇1』は3月21日深夜、『演劇2』は22日夜、日本映画専門チャンネルで放送される。
(※注2)芸劇+トーク異世代リーディング『自作自演』 平田オリザ×三浦大輔<2014年12月25日@東京芸術劇場>
(付記)『幕が上がる』は5月、映画と同じももクロ主演、本広克行監督の演出で舞台公演@東京も行われる。舞台用の脚本は平田オリザが新たに書き下ろす。
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宮崎晃のプロフィル
 みやざき・あきら 共同通信社記者。2008年、Mr.マリックの指導によりスプーン曲げに1回で成功。人生どんなに窮地に立たされても、エンタメとユーモアが救ってくれるはず。このシリーズは、気の小ささから、しょっちゅう瀕死の男が、エンタメ接種を受けては書くコラム。
(共同通信)

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