<金口木舌>「ヤブ医」にも劣る


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 フランスに「医者は山のような墓をつくる」ということわざがあるそうだ。精神科医で作家のなだいなださんが著書「お医者さん」で記している

 ▼古来、過ちのない医師なんて幻想で、地上には一人もいない。誤診も失敗もしない名医がいたら、私はその人の言葉を信じない-と書かれると、ぎょっとしてしまうが、その心を聞くとうなずける
 ▼医者には「名医を意識する派」と「ヤブ医を意識する派」がいる。なださん自身もヤブ医派を自認する。ヤブ医の思想とは、自分の技術・学問の不完全さを常に意識することだ。未熟な自分が過ちがちであることを自覚し、慎重に事に臨む謙虚さこそが医師を高めるという
 ▼この事例はどうか。群馬大学病院で腹(ふく)腔(くう)鏡手術を受けた患者8人が死亡した問題だ。40代医師が執刀したが、全症例に重大で悪質な過失があったと判明した。開腹手術でも10人が死亡していた
 ▼術前検査はしない、カルテにほとんど記入しない、診断書に虚偽の病名を記す、死亡後も検証しない。これではもはや医療とはいえない。手術の映像を見た専門医が「手技はかなり稚拙」と烙印(らくいん)を押すほどのお粗末さだ
 ▼医師の資質を問う以前に人としての倫理観はどうなのか。彼の目は患者よりも「名医」という名声に向いていたとしか思えない。放置していた病院の責任を含めメスを入れる必要がある。