『持続と変容の沖縄社会』 県民群像の興味深い論考


社会
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『持続と変容の沖縄社会―沖縄的なるものの現在―』谷富夫・安藤由美・野入直美編著 ミネルヴァ書房・4500円+税

 学術書の目的は学問の普遍性を追求することだ。同時にその調査フィールドに成果を還元する必要があると考えたい。そして読者としては積極的にその成果を求めてもよいはずだ。

 〈「沖縄的なるもの」をキーワードに、沖縄生活と社会構造をともに理解しようとする試み〉(「はじめに」より)とは、実は普通に暮らす沖縄県民の意識そのものだろう。日々、情緒的に「沖縄的なるもの」を語っていた僕は、研究者13人(新進気鋭の若手から円熟のベテランまで)による論文が収録された本書を、〈十三の物語り〉として読んでみた。量的調査や個々のライフヒストリー聞き取りなどから抽出された「沖縄的なるもの」への社会学的考察を、いわば短編小説集として積極的に読み変えてみたのである。そうしたくなるくらい興味深い論考集なのだ。
 それぞれ要約すれば「本土移住もUターンも楽じゃない」「なんたって模合仲間」「就職できない男」「ワイルドでシリアスなシージャ・ウットゥ関係のヤンキー」「誰も知らなかった琉球華僑」「沖縄移住十年目のつぶやき」「流浪させられたハンセン病者」「辺野古、もうひとつの抵抗」「追憶のコザ騒動」「植民地都市コザの生活と意見」「西表移住した宮古人はクイチャーを踊るか」という感じ。
 興味をもった小説、いや論文から読み始めていいと編者はいうが、やはり本書の立ち位置を固めている「第一章 沖縄的なるものを検証する」(谷富夫)を最初に読むべきだろう。物語りとしての白眉は「第六章 沖縄的共同体の外部に生きる ―ヤンキー若者たちの生活世界」(打越正行)。「沖縄的なるもの」から逸脱した〈ヤンキーの若者たちのモノグラフを中心〉に語られる若者群像である。「信用しれ俺を。」「ううん絶対しないよ、一人で生きていくのに、ずっと決めていたのに、ずっと決めていたからね、それはあるよ。」(ヤンキー若者たちへの聞き取り調査より)。この生々しさは、まさに見えざる沖縄らしさのリアルだ。すかさず読み返してしまった学術書である。
 (新城和博・ボーダーインク編集者)
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 たに・とみお 1951年生まれ。甲南大学文学部教授。
 あんどう・よしみ 1958年生まれ。琉球大学法文学部教授。
 のいり・なおみ 1966年生まれ。琉球大学法文学部准教授。

持続と変容の沖縄社会: 沖縄的なるものの現在
谷 富夫 野入 直美 安藤 由美
ミネルヴァ書房
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