芸能・文化

『地域ジャーナリズム』 社会との関わり多角的に

『地域ジャーナリズム』畑仲哲雄著 勁草書房・4800円+税

 新潟の地域紙「上越タイムス」は、社外のNPOに紙面の一部を提供することで、部数を従来の約3倍、2万部まで増やした。購読者の減少が続く新聞業界において注目すべきこの事例を基に、ジャーナリズムと地域社会の関わり方を学術的な知見を提示しながら多角的に論じたのが本書である。

 「上越タイムス」は地域の有力経営者が経営難の新聞を買い取り、1990年に改題して発行したもので、経営改善策としてカラー化、タブロイド判化を経て、99年からNPOの中間支援組織にページを提供するようになった。この「改革」はNPOの理事でもある社長婿によりトップダウンでなされ、「もうジャーナリズムなんていらん。地域の応援団に徹しろ」という姿勢は「ジャーナリズムの放棄」と、社内外から批判された。
 NPOへの紙面提供は、制作労力の削減という経営側のメリットと、広報媒体の確保というNPO側の利益が合致した結果でもあったが、互いの疑心暗鬼を乗り越えて「地域を良くする」という目的を共有することで、「協働」に至った。
 本書のタイトルである「地域ジャーナリズム」とは、著者によると「地域社会に立脚したニュース報道を支えるイデオロギー」のことで、研究を通して「地域ジャーナリズムは地域の問題解決のために議論を促進し、必要に応じて『正義』や『善』、『郷土のアイデンティティー』などの価値にコミットする」との知見を得たという。
 客観・中立といった従来のジャーナリズム規範とは異なり、パブリック・ジャーナリズムやコミュニタリアニズムと通底する価値観がそこにある。マス・メディア不信が高まる昨今、ジャーナリズムは権力を見張る「番犬」か、地域社会の「善き隣人」か、といった問題は、地域の「共通善」とは何かという問いとともに、多くの人が考えるべき課題である。
 ちなみに博士論文を改稿した本書は、前半が既存研究の詳細なレビューや問題提起となっており、本書の概要と事例をまず把握したい読者は第6章から読み始めるとよいであろう。(比嘉要・琉球大准教授)
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 はたなか・てつお 1961年、大阪市生まれ。関西大法学部卒。毎日新聞社、日経トレンディ編集部、共同通信社で記者などを務め、2013年、東京大学大学院博士課程修了。博士(社会情報学)。現在、龍谷大学准教授。専門はジャーナリズム論。

地域ジャーナリズム: コミュニティとメディアを結びなおす
畑仲 哲雄
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