知事冒頭発言全文


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沖縄はあえぎ苦しんでいる/自民国会議員の発言に絶望

今後70年も基地預かるのか/かたくなな固定観念脱して

 中谷大臣においては大変お忙しい中、意見交換をさせていただくことを感謝申し上げる。4月には菅官房長官、安倍総理とお会いさせていただき、いろんな話し合いをさせていただいた。本土の方々も注目していただき、ほとんどの中央メディアの世論調査で、国民の皆さんが平均して10%ほど多く新辺野古基地建設に反対だという世論調査が出た。

本土と沖縄の理解が深まったことに、大変意を強くしている。中谷大臣とは私が那覇市長時代に自民党県連内で1時間ほど、これまでの普天間基地の県内移設、それからオスプレイ配備について議論したことを覚えている。平行線とはいえ、お互いの主張を確認して今後の議論の約束をしたことをよく覚えている。
 昨年暮れに中谷さんが防衛大臣に就任し、私が沖縄県知事に就任した。それぞれ、国と県の責任者として、またお会いできることを期待していたが、国会答弁やマスコミ報道等によると、大臣の方からは「今、話し合っても溝が深くなるだけだ」「日本の安全保障はどう考えているのか」「沖縄県のことは考えているのか」という私の方から見ると高飛車な発言が聞こえてきた。沖縄県民に寄り添ってご理解いただけるよう努力したいという政府の方針とは程遠く、会えなかったことがさらに政府と沖縄の溝を深くしたのではないかなと思っている。
 普天間基地の5年以内運用停止の定義について、大臣は3月の安全保障委員会で「飛行機が飛ばないこと」と答弁した。しかし、4月24日には「幻想を振りまいてはいけない」とあっさり撤回して「仲井真知事とは運航停止について、政府がやりとりした言葉であって、これが合意されたわけではありません」とも答弁している。5年以内の運用停止は前知事の埋め立て承認の大変大きな柱であり、前知事は官房長官も総理も約束したことが最高の担保だと言っている。空手形にならないようにぜひともしっかりと対応していただきたいと思っている。
 このようなことの積み重ねが、今日の日本国民全体で日本の安全保障を考え、負担すべきだという努力を怠って、戦後70年がたっても沖縄に負担させる。あるいは辺野古が唯一の解決策ということでしか日本の安全保障を語れない。そういった日本の政治の中で、沖縄があえぎ、苦しみ、そして自己決定権を強く主張するゆえんとなっている。
 2年前、参議院の予算委員会が超党派メンバーで来県して、基地所在市町村の首長と意見交換した。その席上、普天間基地の県外移設に話が及び、自由民主党の議員が大きな声でこう言った。「本土が嫌だと言っているのだから、沖縄が受けるのは当たり前だろう。不毛な議論はやめようや」。こういう国会議員と私はどうやって日本の安全保障を議論できるのかと、大変絶望を感じた。
 あらためて申し上げるが、沖縄は自ら基地を提供したことは一度もない。全部、戦後、米国に銃剣とブルドーザーで強制的に接収をされて今日に至っている。海兵隊ももともと沖縄にいたわけではない。本土にあったものが60年、70年代に沖縄に移ってきたわけであり、これも私たちからすると経緯について大変不信感もある。自ら奪っておいて「普天間基地が老朽化したから、世界一危険になったから、新辺野古基地に移設をさせる」「嫌なら代替案を沖縄が出せ」というこの考え方のどこに、私から言わせれば、自由と民主主義、人権という価値観を共有する国々との約束を実現する資格があるのかどうか。沖縄の視点から見ると、大変強く感じる。日米の安保体制、日米同盟は私はもっと品格がある、世界に冠たる、誇れるものであってほしいと心から願っている。
 沖縄県は昨年一連の選挙、名護市長選挙、そして県知事選挙、衆議院全選挙区で新辺野古基地建設反対の候補者を当選させた。これが沖縄県の民意だ。その中で中谷大臣に具体的なお願いが二つある。
 一つは沖縄県から見ると、どんなに米軍が事件・事故を起こして、その都度沖縄県や各市町村長、議会等が防衛局に出向き、意見や抗議をしても残念ながら防衛局に当事者能力がない。能面のように「この件は米軍に伝えたいと思います」と言うことがほとんどだ。日米地位協定の最前線にいるということはそういうことであり、沖縄だからこそこれが現実に見えてくる状況だ。
 私たちも他の都道府県の首長同様、子どものことやお年寄りのこと、そしてまたまちづくりのために全力を尽くして頑張りたいが、いかんせん基地に時間が割かれ過ぎる。私が知事に就任して約5カ月。8割、9割は基地だ。それ以外に経済も福祉も教育も触る時間がない。基地問題だけで私は今日まで知事職を全うしているのかなと思うぐらいだ。
 せめて事件が起きたら、防衛局長はじめ職員が県や市町村に出向いて説明をし、私たちの意見も聞いてもらいたい。これは軍転協の首長さんがそろったときの席上で多くの方が言っていたので、ぜひこれはご検討いただきたい。
 それから二つ目は辺野古の岩礁破砕許可の関係で、コンクリート製構造物の設置状況に関する調査について、外務省北米局に速やかに立ち入り許可が得られるよう依頼しているところだ。沖縄防衛局においても適切に対応していただくようお願いする。
 今日まで海上保安庁の船や防衛局の調査船、工事作業船が出入りできて、沖縄県の調査船が入れない。こういう状況が続いている。これはまさしく理不尽であり、見えないところで現状が変更されているのではないかという疑義さえ私たちに生じさせている。
 私は日米安保体制を理解している。私の政治の流れもそういうものであった。しかしながら、新辺野古基地が唯一の解決策だという考え方に日米両政府が固執すると、日米安保体制に大きな禍根を残すのではないかなと思っている。
 先ほど来、沖縄がいかに日本の安全保障のために重要かという話があった。しかし、考えてみると70年間、冷戦構造時代も今日に至るまでも、いつも沖縄は重要な要だということで何ら変化はない。今、強調されたことも冷戦構造時代より本当にそれが脅威になっているのかどうか。安全保障に重大な危険性を持っているのかどうか。
 あるいはまたグローバルなこれからの安全保障、積極的平和主義ということで、中東まで視野に入れての日米同盟、日米安保体制だが、その中でも沖縄が位置付けられるということになると、沖縄は一体いつまで世界中のそういったもので用立てなければ私たちは住んでいけないのか。この辺のところが先ほどの説明でも現状はよく分かるが、過去はどうだったのか、先々はどうなるのか。70年間は預かってきたが、これから以降の70年間も預かれと言っているのかどうか。この辺のところが明確でないので、先ほどの説明をなかなか納得するわけにはいかない。
 私は辺野古に基地を建設するのは不可能であって、私どもも沖縄県としてこれは絶対に反対していきたい。このように思っている。このまま日本政府が地元の理解を得ることなしに辺野古の基地建設が途中で頓挫することが起きることは、そういう事態は全て政府の責任だと思っている。防衛大臣のご尽力により、政府の新たな英断を心から期待している。かたくなな固定観念から脱して辺野古への建設工事等を中止することを決断し、そして私たちと話し合いを継続していただきたいと思う。
 私も(大臣が)言ったアジアの中における沖縄の在り方、そして日本の安全保障は日本国民全体で考えるべき、負担すべきだ。その努力を本土の政治家は本当に地元の方々に自分の命を懸けて、自分らで守ろうよとそういう話をしたことがあるのかどうか。参議院の予算委員会のメンバーの一人が「嫌だと言ってるのだから沖縄が受けるのは当たり前だろう」と言う中で、日本の安全保障を語ったら、私たち沖縄県民はそういった大きな命題の中で生きていかなければならないのか。大変切ない、寂しい思いがある。ぜひ、この気持ちをご理解いただいて今後に生かしていければありがたいと思う。よろしくお願いします。