『日米安保と事前協議制度』 日本政府の「従属性」えぐる


社会
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『日米安保と事前協議制度 「対等性」の維持装置』豊田祐基子著 吉川弘文館・7000円+税

 本書は、基地使用に関わる事前協議制度の全容解明にメスを入れた初の研究である。
 日米安保のもとで基地の使い方を決める主体は全く米国だった。日本政府は、日本防衛以外の目的で行われる米軍の基地使用に対する諾否を持つことで、主体性や対等性のあることを国民にアピールしたいと考えた。

もっとも政府は、自国防衛を米国に依存しているとの考えから、基地使用に関わる同国の裁量を本気でしばる気はなかったのだが。
 日本政府の相反する態度の逢着(ほうちゃく)点を沖縄返還交渉に見る。本書によれば、米軍が韓国・台湾・ベトナムへ出撃する場合、日本は「基地使用の要請にほぼ自動的に『イエス』と回答することを事前に約束した」。その「イエス」を、共同声明という政府間公式文書ではなく、それとは別個の首相講演で表明する手法に、政府の原則的な考え方が結晶している。国民には、事前協議という制度が実効性をもって維持されているかのような建前をとる考え方だ。
 その原則の応用は、やはり豊田氏が「『共犯』の同盟史」という著書で言及している日米地位協定に関わる日本側一次裁判権放棄密約にも看取できる。
 広島・長崎・ビキニの被爆を経験した日本にとって今ひとつの争点は、米軍による核兵器の「持ち込み」であった。この点については、1970年代半ばに外務省内で、核搭載艦船の領海通過や寄港も「持ち込み」にあたり事前協議の対象になる、という従来説明の変更(非核二・五原則)が検討されていく過程を興味深く読んだ。
 本書は、新たな見解の表明に備えて用意された説明文案を分析の俎上(そじょう)に載せる。文案には、日本としては「非核三原則をあくまで守る」決意であるものの、「今后米国艦船の通過又は一定期間内の寄港」に限って、「核の所在は一切明かにしないとの〔米国の〕最高政策」を「尊重する」と書かれてあった。従属性という、「対等性」の正体の一面を抉(えぐ)りだしているのだ。
 これまでの日米関係70年を省察し、その将来を構想するための必読書と言えよう。(明田川融・法政大学講師)
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 とよだ・ゆきこ 1972年、東京都生まれ。早稲田大卒。96年、共同通信社入社。社会部で防衛庁、憲法取材班、日本人拉致問題、経済部で日本銀行を担当。シンガポール支局長などを務めた。

日米安保と事前協議制度: 「対等性」の維持装置
豊田 祐基子
吉川弘文館
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