『東京パフェ学 パフェ123本を食べて考えた』斧屋著


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

全員おいてけぼりの全力投球
 心の片隅にある罪悪感が邪魔をして、手放しで喜べない。子供の頃からパフェと私の関係はそんな感じでした。だって、だって生クリームにアイスクリームに果物にチョコレート、ですよ。それが一堂に会してるんですよ。そんなもん食ったらバチ当たりそうな気がしません? あ、しませんかそうですか。断じて言うけど嫌いじゃない、むしろ好き、大好きなんです。でもそんなスペシャルなデザートを目の前にしたら自分が自分でなくなりそうな気がして、理性を保つので精いっぱい、そんな子供でした。自意識過剰? かわいくない? そうかもしれません。

 そんな屈折した愛情を抱くパフェ。そのパフェにまつわる本が出たなら、買わないわけにはいきません。著者の斧屋さんは男性。彼が食べに食べた123本のパフェ(パフェの単位って「本」なんだ……)と、そこから得た考察を1冊にまとめている。
 まず驚いたのがパフェを表現するボキャブラリーの豊かさ。「美しきおしくらまんじゅう」「メレンゲとジェラートが茂る、踊る」「影まで美しい夜のパフェ」……。そしてパフェに対する考察に深さにまた驚かされる。驚いているのは読者だけではない。収録されている対談で、対談相手である実の姉、漫画家の能町みね子までもが驚きを通り越しドン引きしているのだ。
 パフェの魅力について斧屋は「多様性や物語」だと語る。「パフェは一般的に器が上下に長い構造を持っていて、かならず順番がある。構成要素が起承転結を持っていて、流れがある、音楽みたいなもので、ぼくは時間芸術って言っている。」……それ聞いてる間の姉の興味のなさ。けれど斧屋は気にしない。食べ方のこだわりについて、ミントが乗っている時は「失礼します」と言ってそれを取るのが儀式なのだとか。
 なんというか、ポップで可愛い、ちょっとレトロな表紙につられて読み出したら、どえらい深い森に連れてかれた気分。パフェが持つ軽やかさ、皆無ですよ。それだけ本気が、本気のままブチ込まれているのだ。すがすがしいほどに、全員をおいてけぼりにする全力投球。うん、これ、パフェの本じゃなくって「パフェ食べる斧屋」の本だね!
 (文化出版局 1400円+税)=アリー・マントワネット
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アリー・マントワネットのプロフィル
 アリー・マントワネット ライターとして細々と稼働中。ファッション、アイドル、恋愛観など、女性にまつわる話題に興味あり。尊敬する人物は清水ミチコ。趣味はダイエット、特技はリバウンド。
(共同通信)

東京パフェ学
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