『セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター』


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

著名写真家の半生描く

 昨今、母国ブラジルの環境保存活動に尽力している写真家セバスチャン・サルガドの足跡を追ったドキュメンタリー。軍事独裁政権を逃れてパリへ渡り、国際機関で働いている時に貧困に苦しむアフリカをしばしば訪れたのが、写真家を志すきっかけの一つになったという。

 サルガドがレンズを向けたのは、難民や移民、肉体労働者、そして紛争地で死におびえる人たち。1枚の写真で、彼らの苦悩や悲しみだけでなく、大地に根を張って生きようとする人間のたくましさまで表現してしまう。そんなサルガドが歩んだ人生を、写真と証言で巧みに構成し、観客を引き込んでいく。
 とりわけ彼が精力を注いだのは、戦場ジャーナリストとしての仕事だ。惨劇を世に知らしめるべく、目を背けたくなるような光景にもシャッターを切り続けた。だがついに、ルワンダ紛争で彼自身が精神を病んでしまったという。
 本作を見ながら思い出したことがある。TV番組『YOUは何しに日本へ?』で、「美しい景色を見たい」と旅をしているイスラエルの元兵士が紹介されていた。兵役時代のことは語らなかったが、そんな心境に至った彼は、一体どんな光景を見てしまったのか。そう考えたら涙が止まらなくなったことがある。サルガドが今、自然問題に取り組んでいるのも当然の流れだったのだろう。
 まさにサルガドの半生を通してみる現代史。名匠ヴェンダースのしたたかな意欲作である。★★★★★(中山治美)
 
 【データ】
監督:ヴィム・ヴェンダース、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド
エグゼクティブプロデューサー:ヴィム・ヴェンダース
出演:セバスチャン・サルガド
8月1日(土)から全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)