翁長知事一問一答 知事帰国講演


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 米誌記者 国連では何を話したか。
 翁長知事 今の話を2分間に凝縮した。NGO(非政府組織)枠に国が反論するのはめったにないらしいが、日本政府は菅義偉官房長官が言っている内容で反論した。例えば政府は西普天間地区を返し、基地削減に力を尽くしていると。NGOが西普天間は沖縄の全基地の0・2%にしか当たらないと反論した。わずかな基地の返還を大変大きく誇張する反論だったという意味では大変残念だったなと思う。

 仏テレビ記者 安保法制が決まり、沖縄が標的になるかもしれない。
 翁長知事 集団的自衛権により自衛隊の行動範囲が大きくなる。中谷元・防相から沖縄の基地強化の話があったが、その一環の辺野古新基地だ。日米共同で辺野古を運用する話がある。
 沖縄が自ら差し出した基地は一つもない。全部強制接収だ。だから私たちは基地の在り方に口を挟めるが、美しい大浦湾を埋め立てて新基地を造れば国有地になり、沖縄県の中で沖縄の手が届かない基地ができる。
 新基地は270メートル級が接岸できるバース、弾薬庫が合理的に配置される。安保法制が沖縄をベースにして基地機能を強化するのが見える。国民が考える安保法制の危険性は、沖縄では現実に動いている。
 沖縄の現状を国民に伝えることで、先々は日本全体がそうなること、日米安保体制がアジアに貢献しているように見えて一触即発という危険性も隣り合わせに持つことを理解すれば、沖縄の基地の在り方など日本全体での理解が進む。
 外国人記者 何年も事態は全く変わらない。日本政府が考えを変える見込みはないのではないか。
 翁長知事 堂々巡りだ。沖縄は136年前までは独立国だったが日本に併合され、立派な日本人になろうと自身の言語も使わないようにした。第2次世界大戦で悲惨な目に遭ったのが県民で、軍隊と一緒に逃げ惑い、足手まといと言って壕から出されたり、言えば言うほど惨めになるたくさんのことがあった。
 戦争が終わったら、銃剣とブルドーザー。自己決定権も何もない。大きな権力の前で、今の基地が取られた。
 1952年に日本政府は米軍に沖縄を差し出し、沖縄は国籍不明になった。
 こうした歴史を踏まえてきた沖縄がいま、日米両政府という大きな権力と、沖縄の自己決定権を含め人権を守るために発言することを、勝てそうにもないから言うことを聞けと。自らがそういう境遇に遭ったら致し方なしと自分の生き方、同胞の生き方を容認するのか。それは人間として生きる意味合いが薄れると思うので頑張っている。
 沖縄の自己選択権、人権、自由、平等を保障しない国が世界に自由や平等、民主主義を共有し、連帯できるのか。小さなものは翻弄(ほんろう)してかまわないという国が、どうして世界に民主主義を言えるのか。日米安保体制の品格という意味でさびしいものがある。
 日本人記者 宜野湾市長選で固定化阻止を掲げる現職と移設反対の知事派の候補が出るが民意について所見を。
 翁長知事 現職市長は前回市長選では普天間は県外と言って当選したが、自民党に政権が代わって今は言わなくなった。
 民意で言えば、昨年の名護市長選は辺野古新基地建設反対の稲嶺さんが4千票差で勝ち、名護市議会も過半数は反対の議員だ。知事選は私が10万票差で当選した。衆院選は沖縄全4区とも反対派が当選した。
 それを受けて基地問題はある。知事選では宜野湾市でも私が3千票勝った。衆院選でも辺野古反対の候補者が6千票勝っている。
 民意は、宜野湾に基地があるのは絶対許されないが、自ら差し出したこともない基地は日本国民全体で引き受けるべきである。県民全体でノーと言っている中で、普天間の固定化は避けるということだ。
 仲井真前知事が埋め立てを承認した大きな理由に、普天間の5年以内の運用停止がある。総理、官房長官との約束だったが翁長が当選したからほごだと言っている。
 しかし米国高官からはできないと反論もあった。日本政府は仲井真さんの任期中8カ月、努力する形跡は何もなかった。空手形と思っている。
 宜野湾市長選は、名護でも宜野湾でも県民全体の意思表示をするよう頑張っていきたい。
 バングラデシュ人記者 沖縄独立論をどう思うか。
 翁長知事 戦後、日本は独立と引き換えに沖縄を切り離した。今回、国連で自己決定権を言ったのは私たちが歴史的にも翻弄(ほんろう)され、自らの海までも銃剣とブルドーザーで埋め立てられる。民意をないがしろにされている。
 日本の民主主義は沖縄、福島の原発もそうだが、国のための犠牲に大変冷淡だ。政治的な意味で虐げられ、切り捨てられ、冷たい。大変残念な状況だ。独立という以前に日本の民主主義がおかしいと国民が気付かなければ。
 沖縄はアジアのダイナミズムを取り入れて飛躍的発展をしようとしている。基地の要塞(ようさい)化ではなくて、平和の緩衝地帯として生きることに意味を持つからこそ、基地にも反対する。
 豪州人記者 基地建設の許可を取り消せば裁判で何年もかかる。建設を止めることができるか。
 翁長知事 私が国連で演説をしたのも沖縄県民の自由、平等、人権、民主主義をほとんど顧みない日米安保体制で基地が出来上がることの検証を世界中に流してもらいたいからだ。日米両政府の権力と140万県民が闘えば、誰もが沖縄に勝ち目がないと思う。
 だが、私たちは27年間米軍施政権下で人権がじゅうりんされた時代を生き、闘って一つ一つ人権を積み上げてきた強さがある。
 行政としては法律的に取り消しできるようにやる。美しい海の埋め立ては世界の環境問題でも許されない。本土は日本の安全保障のためなら十和田湖も松島湾も埋め立てるか。自分の所にできない人たちが沖縄の海を埋め立てるということ自体、日本の民主主義はおかしなものになっている。
 安倍政権も長くてあと3年。来年は参議院選もある。日本の民意が変わることも十分にあり得る。県や名護市は持っている権限もある。世界中の人に見てもらい、解決の道を探したい。
 日本人記者 沖縄問題に対する本土の姿勢に変化は見られるか。
 翁長知事 3年前の東京要請行動で沖縄の政治家が皆、東京で反対を訴えても一顧だにしなかった。が、辺野古問題が報道され、各世論調査で沖縄に基地を置かない方がいいが40%、置いてもいいが30%となった。本土もこの問題に関心を持った。
 沖縄も県民の方が政治の先を行っているからオール沖縄になった。
 力を結集できる勢力をつくり民意を問える政治にしたいというのが本土にも強く、色濃く出てきた。現状は一強多弱だが、いい方向に行くのではないか。