『人頭税はなかった』 琉球・沖縄を学ぶ必読書


社会
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『人頭税はなかった』来間泰男著 榕樹書林・900円+税

人頭税はなかった―伝承・事実・真実 (がじゅまるブックス)

 「人頭税」とは、担税能力の差に関係なく、各個人に対して一律に同額を課する租税のことである。19世紀末まで、宮古・八重山の先島地域は「過酷な人頭税」に苦しめられてきたとされ、時には「先島差別論」とも重ねて論じられてきた。

 本書は、新たな歴史像を提示し、これまでの「人頭税」をめぐる議論に一石を投じている。議論の詳細については、実際に本書を読み解いていただきたいが、近世琉球の租税制度や「人頭税」がどのように論じられてきたかを紹介するとともに、「沖縄県旧慣租税制度」などの一次史料を検証し、近世琉球の王府が「間切・村」単位に租税を賦課していたこと、当時は夫役が中心であったために、先島地域のみならず、沖縄本島地域をも含めて「人頭税的」な租税制度ではあったが、決して「人頭税」では「なかった」ことなどを明らかにしている。
 評者は「沖縄という所は伝説が生まれやすい所だ」との著者の思いを共有するものである。「沖縄で伝説(や幻想)が生まれやすい」のは、何も歴史を論じる場合に限ったことではない。現代の沖縄(社会や経済)について論じる際も同様である。米軍基地さえなくなれば飛躍的な発展が実現するかのように語る沖縄経済論がその端的な例であり、著者は近著(『沖縄の覚悟』日本経済評論社、2015年)で、沖縄をめぐるさまざまな「幻想」について批判的に論じている。
 著者は「歴史は、正しく伝えなければならない。客観的な事実を探っていかなければならない。それには単なる言い伝えによることなく、主観によることなく、資料を提示しなければならない」と述べているが、このことは歴史を論じる場合のみならず、現代の社会や経済を論じる際にも、論者が肝に銘じておかなければならないことである。
 本書は、琉球・沖縄の歴史や現代沖縄の社会や経済を学ぶ者にとって必読書となるであろう。沖縄について学ぶ者全てに本書と併せて、前述の『沖縄の覚悟』と著者の「沖縄史を読み解くシリーズ」(日本経済評論社)を読むことをお勧めしたい。
 (藤原昌樹・国際リゾート研究所)
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 くりま・やすお 1941年、那覇市生まれ。70年~2010年、沖縄国際大勤務。同大名誉教授。沖縄農業、経済学、歴史学で著書多数。