『無頼漢 渇いた罪』 アンビバレントなリアリティー


社会
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 見どころはチョン・ドヨンの演技だろう。『シークレット・サンシャイン』でカンヌ映画祭の女優賞に韓国人として初めて輝き、本国では“カンヌの女王”とまで呼ばれる彼女の、やさぐれ感と気品がないまぜになったアンビバレントな官能性。40歳を過ぎてぐんと色気が増している。

 演じるのは、殺人事件の容疑者となった男の愛人。素性を偽って彼女が働くバーに潜入した刑事との関係が描かれる。つまりファムファタール的なヒロインでありながら、禁断の間柄の2人が引かれ合っていくメロドラマの要素も併せ持った作品なのだ。
 面白いのは、主要人物3人が矛盾に満ちた行動をとるところ。自分の本心に気付かない、というより、どちらも本心という人間心理の複雑さをリアルにあぶり出した脚本が秀逸で、しかもそれを、あくまでも彼らの行動=視覚化によって描いている点に好感を覚える。監督は、『八月のクリスマス』『力道山』などむしろ脚本家として評価の高いオ・スンウク。フィルムノワールな空気作りなど演出力も確かで、その意味で『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』のクリストファー・マッカリーに通じる気がする。
 チョン・ドヨンの官能性、主人公たちの矛盾に満ちたふるまい、ハードボイルドなのにメロドラマな世界観…本作の特長は、まさにアンビバレントなリアリティーにある。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:オ・スンウク
出演:チョン・ドヨン、キム・ナムギル、パク・ソンウン
10月3日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也