沖縄では海水を淡水化して「真水」を、あるいは「塩」を結晶させ、観光業界は、海浜・海域の「美しさ・楽しみ」を売っている。しかし、その誰も海にお金を払ってはいない。誰のものでもない、皆のもの(「自由財」)だからである。
沖縄の人々は、この自由財を享受して、独自の生活文化、海洋文化、沿岸文化を形づくった。自由財としてのさんご礁の海は、保全・保護することによって価値が保たれ、掘削して量的消費に向けられる石油資源などとは別物だ。
著者は、観光が沖縄経済に大きな比重を占め、観光客の「沖縄の海の美しさ」への期待と満足度の高さに着目して、沖縄のさんご礁の総経済価値のうち、「生態系及び景観の価値」(非利用価値)を評者が知る限り、初めて試算した。その価値約5000億円。これはWWFが試算した日本全体のさんご礁がもたらす「経済利益」の約2・5倍。ここに象徴的に日本の生産活動や価値観の変化が読みとれる。全国の造礁さんご礁面積の84%(2万8000ヘクタール)を占め、世界的にも生物種が極めて豊富な沖縄海域。だが同時に緊急の保護対策が必要とされ、観光のお手本としてきたハワイよりかなり状況が悪い(米国科学雑誌「サイエンス」、2002年)。
沖縄北部には「山ヌハギレー、海ンハギーン」(山がはげると、海もはげる)といういわれがあるが、環境経済学者である著者は「海ヌハギレー、観光ン、ハギーン」という連鎖を懸念する。サンゴが消えると、サンゴの「残骸(ざんがい)」が生んだ白い砂浜も消える。
著者は、ここで終わらせない。国頭の安波集落に通い、離島にも足を運び、そして韓国の離島、済州島の住民参加の観光開発にも注目する。在外研究の期間中、アイルランド観光もみつめてきた。そのうえで、沖縄の「内発・自成の発展」経路を章だてで論じている。沖縄の人口、土地面積は全国のたかだか1%。沖縄の文化・自然環境を特徴づけながら、あたかもイソップ物語のキリギリスになって、鍛錬した名演奏・名曲を働き蟻(あり)たちに「売ろう」ではないか、というのである。学者・研究者として沖縄に13年、著者は沖縄がよほど好きである。
(喜屋武臣市・沖縄尚学高校教育研究開発部主任)
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