主権による統治組織を持つ社会集団を「国家」と呼ぶなら、日本はこの定義から外れるのではないかと考えてしまう。そのくらいショッキングな日米両国政府の秘密合意の存在が明るみに出た。
先ごろ機密解除された複数の米側公文書によれば、日米政府は日本に駐留する米兵らの事件をめぐり、1953年に「重要な案件以外、日本側は裁判権を放棄する」との密約に合意した。実際、日本側はその後、約5年間に起きた事件の97%の第一次裁判権を放棄していた。
日本は52年、対日講和条約の発効で沖縄を除けば独立を回復し主権を取り戻した形となった。しかし、一方で、裁判権放棄という「外部に漏れたら恥ずべき事態」(当時の岸信介首相)がひそかに進行していたことになる。
これでは「主権国家」と胸を張れまい。国民への裏切り行為ともいえ、歴代の政権が半世紀余にわたり公表を避けていた罪は重い。政府には、国民を欺き続けた経緯と責任の所在について、明確に説明してもらいたい。
沖縄関係だと今回、伊江島の米兵発砲事件に関する「覚書」の存在が明らかになった。同事件は74年の発生だから、密約が沖縄返還後も連綿として生きていることがうかがえる。
経緯はこうだ。伊江島の米軍射爆場で演習後、草刈りのために立ち入った住民を米兵が追い掛け、至近距離から狙い撃ちして負傷させた。米側は当初、兵士が公務外のため、第一次裁判権を日本に渡すとした。ところが、途中で方針を変え、公務中だったとして裁判権放棄を要求。日本は反発したが半年余の協議を経て、米側に屈した。残念だが、これが軍事同盟の実態だろう。
当時の外交電報で、米政府は方針変更の理由について「裁判権を行使し損なえば、他国との地位協定や米兵の士気にまで影響が及ぶ」と報告していた。
駐留先の住民の生命よりも、米兵の士気のほうが大切という米側の神経には驚くほかないが、それを「致し方なし」とする日本側の感覚も理解できない。国民、県民を守れずして、主権国家といえるのだろうか。
今回の件では、日米地位協定の内実があらためて浮き彫りになった。日本はこの間、米兵の裁判権を確保しているとしてドイツ、韓国などより「有利な協定」と強調してきたが、その説明が根幹から崩れた。建前と実態は明らかに離反している。
政府は、密約の存在を認めた上で、筋違いな協定の抜本的改定に着手すべきだ。そうしないと、国際社会の一員としての国家はおぼつかない。
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