「誰でもよかった」。この短い言葉に病根が隠されているのではないか。8日、東京・秋葉原で起きた無差別殺傷事件で逮捕された加藤智大容疑者が事件直後に発した言葉である。特定の対象に向けられた悪意ではなく、社会全体に対するゆがんだ思いだろう。また起きてしまった凶行で、7人の貴い命が奪われた。
今年3月、茨城県土浦市で起きた89人殺傷事件の容疑者、同じく3月に38歳の男性公務員を線路に突き落として死亡させた18歳の少年、4月に鹿児島県でタクシー運転手を殺害した19歳自衛官、そして昨年5月に母親を殺害し頭部を切断した17歳の高校3年生もそうだった。
彼らが逮捕後に一様に語ったといわれるのは「誰でもよかった」という言葉である。
特定の対象への恨みや怒りの爆発ならまだ理解はしやすい。しかしこれらの無差別的な殺人は社会的状況、幼少期からの成長過程にもかかわる根の深い背景があろう。理解し難い複雑な事件である。それが今ではまれに起こる特異な事例ではなくなっているところに、問題の深刻さを感じざるを得ない。
犯罪の専門家は、格差やワーキングプア(働く貧困層)が、問題となるような今の競争社会に適合できずに不満を爆発させるタイプの犯罪が起きていると指摘する。
秋葉原の容疑者は、小学時代は「足が速くてクラスの人気者」。現在はおとなしくまじめな派遣社員だったという。事件とは懸け離れた性格に見えたため、周辺の人々に衝撃を与えている。変化は、3カ月前に会った友人が感じている。容疑者は「死にたい」と漏らしていたという。その時、既にどうしようもないがけっぷちに立たされていたのかもしれない。
そこから凶行に踏み出す前に何とかできなかったのか。見えない心を察知するのは容易ではないが、今、最も現実的な防止策は、周りの人々が追い詰められた状況に気付いてあげることではないだろうか。ここまでゆがんだ社会。追い詰められた人はほかにもいると考えられる。
秋葉原で犠牲になった7人は、一瞬のうちにむごい形で人生を奪われた。本人の無念さ、家族のいいようのない悲しみを考えると、胸が締め付けられる。
事件を受け、町村信孝官房長官は銃刀法の規制強化の在り方を検討する必要があるとの認識を示した。それも重要だ。だが、病根を明確にし、そこを徹底的に是正しなければ、規制強化は対症療法にしかならない。別の凶器を使った「不満の爆発」が起きる可能性もある。
人の心をむしばむ社会状況を何とか変えなければ。二度と犠牲者を出してはならない。
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