安心して暮らせる、静かな日々を求める訴訟は、最大争点の深夜や早朝の飛行差し止め請求が棄却された。これまでの騒音訴訟と同様、国の支配が及ばない「第三者行為論」を理由に退け、「危険の除去」を求めた住民の願いはかなわなかった。
宜野湾市の中心部にあり、住宅地と隣接する米軍普天間飛行場は、2003年に当時の国防長官、ラムズフェルド氏すら危険性を指摘した沖縄の過重な基地負担の象徴だ。提訴から5年8カ月の歳月は、訴訟を起こした住民約400人のみならず、爆音下に暮らすそのほかの宜野湾市民や、同飛行場への進入路延長線上にある浦添、沖縄、北谷各市町の住民にとっても長すぎる日々だったに違いない。
守られない場周経路
一方、騒音に対する我慢の限度を超えているとして、うるささ指数(WECPNL、W値)75以上に対しては、過去分で総額約1億4000万円の損害賠償を国に命じた。市街地に立地する普天間飛行場の騒音を裁判所として初めて違法と認めたことは、評価できる。
04年の沖縄国際大へのヘリコプター墜落事故を契機に、国は飛行ルートについて住宅密集地をなるべく通らないよう米側と合意した。しかし、場周経路は守られず、
市全域を米軍機が飛ぶ現実が続く。
判決では「消音装置の設置や運航対策も現実的な効果が十分とは認められない」と指摘し、一層の対策を求める。静かな生活を求める住民に対し、より現実的な効果をもたらす対策は重要だ。
現行の爆音被害の基準はW値のみだ。その指数についても、これまで訴える側が測定し、証明してきた。訴訟では、騒音測定を国に義務付けるよう求めたが、司法は騒音測定の義務化は命じなかった。
W値については、新嘉手納爆音訴訟で75、80が被害認定から外された。騒音測定で国と県の違いが明らかになり、より多角的で正確な騒音調査の必要性が求められる。
被害認定で、焦点となっていたヘリコプター特有の低周波音被害については認めなかった。「低周波音によりイライラ感、不快感の精神的苦痛を受けている者が多数いると推認できる」としながらも「原告全員が最低限等しくこのような精神的苦痛を受けていると認めることまではできない」とした。
07年6月に裁判所が行った現場検証で測定された低周波音は、環境省の参照値を超える数値が測定された。低周波音は、人間の耳には聞こえにくいが、音を感じなくても頭痛や吐き気、耳鳴りでイライラや不眠など人体に影響を与えるとされる。
環境省の「低周波音への苦情のための参照値」によると、心身に苦痛をもたらす低周波音レベルは92デシベル。現場検証では、調査地点4カ所のうち、3カ所で92デシベルを超え、最大では97・5デシベルだった。
低周波音被害明確に
現場検証を踏まえ、司法は低周波音について精神的苦痛を受けている住民が「多数いると推認できる」として、その問題点を認めたことは一歩前進だ。科学的に被害を明確にする契機にしたい。
狭い県土の上、基地があるため居住区域は限られている。国が主張した「危険への接近」法理について司法は「沖縄本島において居住地を選択する幅が限られている事情があり、普天間飛行場周辺の歴史的事情が地元回帰意識を強いものとしている」として退けた。「転居の理由、周辺に存在していることによって得られる利益を期待しているとはいえない」とする司法の判断は、当を得ている。
「普天間飛行場の設置または管理に瑕疵(かし)がある」として爆音による精神的被害を認めた判決だが、原告団は「飛行差し止めがされなかったことは、被害をずっと受けるということ。差し止めをせず、単に金を払えばいいという考えは原告団として受け入れられない」と控訴を検討する。
精神的苦痛を認めた判決は、一定の評価ができる。が、住民が耐えてきた最低限の要求が認められたにすぎない。日米両政府が普天間飛行場の返還に合意して12年。移設先の滑走路建設位置をめぐり、政府と県が対立し、14年の移設完了は厳しい。ヘリ墜落事故への不安は一向に解消されない中、返還が先延ばしになれば、住民の安全な暮らしは遠のくばかりだ。この現実を日米両政府はしっかり受け止めてもらいたい。安心できる環境改善に向け、日米の協議を望む。
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