日本に駐留する米兵の事件に関し「実質的に重要と認められる事件のみ裁判権を行使する」との通達を、法務省刑事局が1953年に全国の地検などへ送付していたことが明らかになった。
事実上、裁判権を放棄するよう指示していたわけであり、国民に対する背信行為と言っても過言ではない。
裁判権を行使しない場合は、単に「不行使」とすると批判を浴びる恐れがあるので、「起訴猶予」とするよう命じていたのだから、手が込んでいる。
法務省は地検からの問い合わせに対し、日本側が第1次裁判権を行使できない「公務中の事件」の定義を拡大して解釈するよう促し、公務中だったことを証明する米側書類についても、職務内容などの詳細は不要で「公務中」との記載があれば十分と回答していた。
しかも、将校の行動はいかなる場合も公務中に当たるとの解釈を示した。将校は偉いから日本では裁きません―という態度は卑屈そのものだ。
日米地位協定は、公務中の犯罪などを除いて日本に第1次裁判権があると規定している。
周知の通り、日米地位協定は一方的に米国側に有利な内容だ。その協定が認めた権利さえ行使しないで、どうして「主権国家」と言えるのか。
米兵事件をめぐっては、「重要な案件以外、日本側は裁判権を放棄する」との密約を日米両国政府が53年に交わしていたことが明らかになっている。法務省の通達は、この密約を履行するために出されたと見て間違いない。
駐留米軍を不当に優遇する日本政府が、兵士の野放図な振る舞いを助長してきた。
そのあおりを食うのはほかならぬ国民である。とりわけ、在日米軍人の約7割、海兵隊員にいたっては全国の96%が集中する沖縄にとっては極めて深刻な問題だ。
53年の通達は「米兵の事件処理では、軍隊の地位や国際先例にかんがみ、特に慎重な考慮が必要」と強調しており、米国におもねる姿勢がうかがえる。
米兵による事件は、起訴されずにあいまいな形で処理されるケースが後を絶たない。半世紀以上前の通達がいまだに維持されているのだろう。
政府は、日米地位協定の見直しを求める県側に対し「運用改善で対応する」との方針を重ねて示してきた。実態は、改善どころか、米軍に有利な運用をし続けてきたことになる。
米軍への著しい特別扱いは国民の司法に対する信頼を損ねることにしかならない。「主権国家」として恥ずかしくない、毅然(きぜん)とした対応を取るべきだ。
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