日本に駐留する米兵事件に関し、事実上の裁判権放棄を指示した通達が掲載された法務省資料を国立国会図書館が6月上旬から閲覧禁止にしていたことが明らかになった。
1990年に資料を入手した後、閲覧できる状態になっていたが、法務省が「米国との信頼関係に支障を及ぼす恐れがある」として5月下旬に閲覧禁止を要請。国会図書館がこれを受け入れた。
くさい物にふたをする、国家ぐるみの隠蔽(いんぺい)工作としか言いようがない。
資料には「実質的に重要と認められる事件のみ裁判権を行使する」と記載した53年の通達などが収められていた。
「裁判権の放棄はない」という政府の説明を根底から揺るがす証拠資料だから、法務省としては一刻も早く人目に触れないところに隠しておきたかったのだろう。「米国との信頼関係」は、いかにも取って付けたような理由だ。
法務省から閲覧をやめてほしいと求められ、唯々諾々として従った国会図書館の対応にも大いに問題がある。
日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」は「図書館は、権力の介入または社会的圧力に左右されることなく、自らの責任にもとづき(中略)収集した資料と整備された施設を国民の利用に供するものである」とうたっている。
文書を作成した機関からの要請とはいえ、これまで公開していた資料を一転して非公開にしたことは、「図書館の自由」の原則にもとるのではないか。
「宣言」は、戦前の図書館が「思想善導」の機関として国民の知る自由を妨げる役割さえ果たした反省を踏まえ、国民の知る自由を守り、広げていく責任に言及している。
国民の知る権利を抑えつけるのではなく、知る自由を保障するのが図書館の本来の役割であり、使命であるはずだ。いま一度原点に立ち返り、再確認する必要がある。
今回、閲覧の対象から除外された「合衆国軍隊等に対する刑事裁判権関係実務資料」は72年に作成された。53年以降、法務省刑事局や最高検察庁が作成した通達などを掲載し、解説を加えている。
日本側が第一次裁判権を行使できない「公務中の事件」の定義を拡大して解釈するよう促すなど、国民への背信行為と言っても過言ではない中身が含まれている。
「主権国家」として恥ずべき内容だから表に出したくないのだろうが、国にとって外聞の悪い事柄はすべて秘密にするというのなら戦前と何ら変わらない。
法務省は資料を隠蔽するのではなく、むしろ積極的に公開し、その趣旨等について、きちんと説明責任を果たすべきだ。
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