「ゆでガエル理論」というのがある。熱いお湯の中にカエルをいきなり入れると、びっくりして器の外に飛び出してしまう。しかし、水の中に入れて少しずつ熱していくと、その水温に慣れていく。そして熱湯になった時には、すでに考える力も失い、さらに飛び出ることもできなくなりゆで上がってしまう。
沖縄に新しい軍事基地は不要だとして、これまでの「常識」を覆そうと活動する学識者らが、普天間代替建設などに反対する声明を発表した。組織の代表を務める沖縄対外問題研究会の宮里政玄氏は「日米で(政権に)変化が起こりつつある。声明を出すタイミングは非常にいい。だが沖縄だけがさっぱり動かない。声明は日米両政府あてだが、県民に対するものでもある」と述べている。
沖縄県民は基地問題に関して思考停止に陥っていないか、またゆでガエルになってはいないか、との警告と受け止めた。これは果たして考え過ぎだろうか。
「米国に逆らってもしょうがない。日米関係の維持が何よりも重要だ」「北朝鮮が攻めてきたらどうする」「基地を受け入れて財政支援を得るしか、沖縄が生きる道はない」―。これらの「常識」がまかり通った結果、「基地の県内建設は避けられない」と信じ込んだ人が多いのが現状だろう。
しかし、果たして「常識」とされる、その考えは正しいのだろうか。ほかに取るべき道はないのかどうか。名護市辺野古への普天間飛行場代替施設建設が既成事実として進んでいるが、引き返す選択肢がないわけでもあるまい。
芝健介・東京女子大学教授は「システムはできあがったら、抜け出せない。その前に手を打たないと」と警告する。さらに「大きな流れにのみ込まれそうなときに『待てよ』という感覚を持てるか」「過去に実際に起きた事実とは別にあったはずの選択肢が、なぜ実現しなかったのか、検証する必要がある」(本紙13日付文化面)とも。沖縄の現状を考える上でも、示唆に富む指摘だ。
歴史を学ぶということは、過ちを繰り返さない、ということでもある。身近な事例は、いくらでもあろう。なぜ、先の大戦に突入せざるを得なかったのか。なぜ、理想とは大きく異なる本土復帰となったのか。別の選択肢はなかったのか。その都度、「待てよ」という意識の営みが必要だ。声明は県民一人一人にこう呼び掛けている。
すでに、私たちが熱湯の中にいるとは思えない。考える力も、ぬるま湯の外に飛び出す力も残っていると信じたい。とはいえ、徐々に温まっていくときが人間にとっては一番、気持ちがいい。今が、まさにその時期だとしたら、残された時間はそれほどない。
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