服部四郎 沖縄調査日記
著者:服部旦編 上村幸雄解説
出版社:汲古選書
定価:2940円
服部四郎(19○8―95年)は、日本語とそれを取り巻く諸言語の研究において、戦後日本を代表する言語学者であると同時に、琉球語についても優れた研究業績を持ち、この分野の発展を促した大きな存在であった。
彼は1955年10月から12月までの3カ月間、沖縄に滞在した。琉球大学で講義するかたわら、沖縄各地の方言を調査するためであった。東京大学時代以来の親友、仲宗根政善は当時琉球大副学長であり、友の計らいで初の沖縄訪問が実現したのである。服部の刺激を受け、琉球語研究を志す若者が輩出した話は沖縄研究分野では有名なエピソードである。
他界した後、彼の蔵書・資料を整理していた長男の旦(あさけ)氏が一冊のノートを見い出した。父の沖縄滞在中の日記であり、日々の行動や調査メモが記されているばかりでなく、新聞記事の切り抜きや写真、バスの乗車券などがスクラップされていた。服部四郎にとっての沖縄、また沖縄にとっての服部四郎を理解してもらうために、旦氏が編集し世に送ったのが本書である。
日記をそのまま印刷したのではない。父の日記を手に、父が歩いた場所、出会った人々、当時の時代状況などを丹念に確認したうえで、詳細な注釈を加えた。関連する23編の資料を収録し、丁寧な解説を記した。父にとって沖縄は研究対象を超えた存在であると思う息子にして、初めてなしえた仕事である。
一読して、服部四郎という知性の息遣いが聞こえてくるように感じられた。あの沖縄戦からまだ10年しかたっていない。琉球大は開学してまだ5年である。巨大な基地オキナワが出現しつつある一方で、住民の生活は貧しかった。想像していた以上に青くまばゆい空と、その下でたくましく生きる人々も目にしている。
そのような戦後状況の現場に触れながら、服部は人々の生活ぶりと言語の現在に向き合っている。訪ねたいと念じ続けてきた沖縄に今いることの興奮と、この土地をめぐる現実に揺らいでもいる。彼の愛弟子に当たる上村幸雄氏の解説も読み応えがある。
(高良倉吉・琉球大学教授)
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