
教科書検定―沖縄戦「集団自決」問題から考える (岩波ブックレット)
これまで、教科書検定をめぐって、特定の地域社会全体が大騒ぎになることは、ほとんどなかった。例外は沖縄で、二度も県民総ぐるみ、島ぐるみで検定撤回の声をあげ、成果をあげた。
最初は1982年で、沖縄戦の住民虐殺記述を削除された件だった。このときには、それまで沈黙していた目撃者や体験者が次々に名乗り出て、検定官たちは逆効果を思い知らされたのだった。
二度目が昨年来の「集団自決」歪曲(わいきょく)検定問題で、11万6千人が結集した県民大会の衝撃は、日本列島を駆け抜けた。北海道からは「久しぶりに胸のすく思いのニュース」との声が伝えられた。
けれども懲りない国側は、検定意見の撤回や謝罪という県民大会決議を無視し続けている。それならばと、県内外の一般主権者や教科書執筆者たちも、文科省批判の矛を収めていない。
そうしたとき、人々の関心がどれだけ持続されているかで、取り組みの効果は左右される。しかも、検定制度は複雑で分かりにくい。
そこへ登場したのが、本書『教科書検定』だ。ブックレットなので手軽だし、複雑な内容が簡潔にまとめられ、要点も分かりやすい。それもそのはず、執筆者の石山久男氏は、長年の高校教師体験を土台に教科書執筆を続け、検定体験も数十年に及ぶ。文科省の検定調査官たちよりも、その経験年数は長い。
その上、「集団自決」歪曲検定を押し付けられた筆者たちのまとめ役として、昨年12月の訂正申請で文科省に屈辱感を味あわせた立役者でもある。
そうした実績を鮮明に誇示することもなく、石山氏は本書で沖縄の運動を中軸に据えて、沖縄の声が教科書の悪化を食い止めたと強調している。その謙虚さは、われわれ主権者の側の余裕の現れでもある。
歪曲検定は「戦後レジームの見直し」を掲げた安倍政権下だからこそ実行された。それを是正させた沖縄の運動が、全国に影響する教科書検定の悪化阻止、改善や是正にどう結びついているのか。
採択制度の改善、是正と絡めながら、本書は沖縄県民運動が今も果たしつつある役割を、読み取らせてくれる。本書を手に再度言おう、「沖縄県民ここにあり!」と。
(高嶋伸欣・琉球大学名誉教授)
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