昨年2月に千葉県沖で起きた海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故で横浜地方海難審判所が22日、裁決を下した。
操業中の親子二人が犠牲になった事故は、監視が十分に取れていなかった「あたご」側に主因があると判断した。その上で安全を軽視する海自の組織体質を厳しく指弾し、あたごが所属する第三護衛隊(京都府舞鶴市)に対して安全運航の指導徹底を求める異例の勧告を言い渡した。
審判の目的は刑罰を科すことではない。事故原因の究明と再発防止が目的だ。
常識では考えにくい事故がなぜ起きたのか。なぜ最新鋭の装備を誇る「あたご」が衝突を避けられなかったのか。どうして過去の教訓を生かせなかったのか。
海自はもちろん、防衛省は裁決が当直責任者ら個人の責任以上に組織の体質に踏み込まざるを得なかったことの意味、その重さを正面から受け止めねばならない。事故を再検証し、隊員教育の充実につなげる必要がある。
船舶が往来する海域なのに自動操舵(そうだ)を続ける。漁船の方位変化に対し、コンパスを使わずに目視で済ませる。見張り役は徹底さを欠いた上、密な連携を要する艦橋内のチームワークは不十分。
審判の過程や裁決で浮かび上がったのは、船乗りの基本を忘れ、海の交通ルールを怠るなど初歩的ミスを重ね、ずさんとしか言いようのない運航体制が事故直前まで続いたことだ。これで何も起こらないのが不思議なくらいだ。
海自組織への勧告は、1988年の潜水艦「なだしお」衝突事故の海難審判の一審裁決以来のことである。20年前の審判でも海自の体質が問われ、改善を強く求められた。釣り船客ら30人が亡くなった痛ましい事故を教訓とし、再発防止を誓ったのではなかったか。
海自は、見張りや当直態勢の再構築などを理由に勧告をしないよう求めた。だが裁決は、乗組員の教育訓練の不備を厳しく指摘した上で「実効性のある取り組みをしなければ再発防止は図れない」と結論付けた。
前艦長は「今も漁船に大きな原因があったと思う」との姿勢を変えていない。事故への反省がうかがえないのは理解に苦しむ。強弁を繰り返すようでは、地に落ちた海自の信頼回復は遠のくばかりだ。
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