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ピンチはある時突然に、キム兄との初対面2009年5月14日  このエントリーを含むはてなブックマーク Yahoo!ブックマークに登録 twitterに投稿する

 なぜ私のコラム枠のタイトルが「瀕死の私―」なのか、といろんな人に聞かれたから書くが、気が小さいくせに記者をしていると、例えばこんなことになる。
 2年前、お笑い芸人のキム兄こと木村祐一(敬称略)がかつて出演したある番組のDVD化が決まり、彼のインタビュー取材に呼ばれた。
 取材場所である東京・新宿の劇場「ルミネtheよしもと」の楽屋へ向かう途中、宣伝担当者から携帯に連絡があり、私より前に行われていたキム兄への2、3のインタビューが予定よりかなり早く切り上がってしまい、「すぐに来れますか?」と言う。
 ゼエゼエしながら劇場に駆け付けると、担当者が「DVDの話はもう、あまり…」とつらそうに言うから、息が止まりそうになった。だってDVD絡みの取材で私を呼んだんじゃないの? しかし言葉を返す間もなく楽屋のドアの前まで通されてしまい、もう瀕死。
 ほかの取材者とキム兄の相性がたまたま悪かったであろうことも、担当者なりに気を回しただろうことも推察できるが、それなら延期してくれた方が…。キム兄と初対面というだけでも、また髪が薄くなりそうなのに、「不機嫌な」がほぼ確定的では怖すぎる。「停電とか、起きろ…」と念じたが、当時の私はまだスプーンも曲げたことがなかった。
 恐る恐る楽屋に入ると、険しい表情に見えるキム兄。あいさつしてソファに座った私はとっさに言った。「いよいよ『人志松本のすべらない話 ザ・ゴールデン』、放送ですね」。うぉ〜、ほんとDVDと全然関係ない話題振った。彼が初出場し、誰よりも笑いを取ったその特番の収録を、たまたま数週間前に見学していた私は、イチかバチか賭けたのだ。
 キム兄、一瞬意外そうに「おお、そうやな」と言ったが、すぐに再び険しい顔に。私の人となりをうかがっているようにも見える。うぅ…、シャツとズボンが冷や汗をどっさり吸って重たい。だが、話し続けるほか道はない。
 彼が放送作家でもあることを踏まえつつ、人の関心を素早く引きつけるすべは何か、先日の収録での話術で言えば具体的にはこの部分か、など質問しながら、単なる「一問一答」を「会話」へと成長させるべく、彼の言葉に耳を澄ます。
 すると、なんと次第にキム兄が前のめりになって話してくれるではないか。むしろこの話題の方が私もDVDより興味がある。すべらない話の爆発的な人気について、私なりの分析を聞いてもらったり、キム兄の続けている仕事と、この場での発言とに共通する点を発見して語ったり…。ん? た、楽しい。奇跡の回復を遂げた私は晴れ晴れとして「じゃ、最後に、写真を撮らせていただけますか」。
 その時、キム兄が言った。
 「自分、DVDの話聞かんでええの?」
 うっかり八兵衛を心配するような、少しあきれたような苦笑まじり。
 「あ、聞きます聞きます」。え〜とえっと、DVDで聞くべきポイントって何だったっけな…。私はまた、冷たい汗をかき始めたのである。

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 (宮崎晃の「瀕死の私にエンタメを」=共同通信記者)
(共同通信)

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 みやざき・あきら 共同通信社記者。2008年、Mr.マリックの指導によりスプーン曲げに1回で成功。人生どんなに窮地に立たされても、エンタメとユーモアが救ってくれるはず。このシリーズは、気の小ささから、しょっちゅう瀕死の男が、エンタメ接種を受けては書くコラム。
(共同通信)


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