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《137万人の会議室》第3回「夜型社会」 2009年7月20日  このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録


 県内のほとんどの学校が、18日から楽しい夏休みに入った。しかし、深夜徘徊といった子どもたちの生活習慣の乱れも目立つ時季だ。夜型の生活習慣を改めようとACジャパンは沖縄地域限定キャンペーンを実施している。また、生活習慣の乱れが学力・体力低下の原因という指摘もある。「夜型社会」の問題とは何か。沖縄大学人文学部こども文化学科教授で沖縄子ども研究会代表の加藤彰彦さんに詳しい解説をしてもらった。

■2つの「夜型社会」
 「夜型社会」というとマイナスのイメージが強いが、そのパターンをよく考えてみたい。人の営みは原則、自然のリズムに深く関係している。日が昇ると起き、日が沈むと眠るというリズムだ。しかし、昼が暑い地域では、活動するのに必ずしも適さない昼に体を休め、その代わり、日没後もしっかり働く習慣もある。スペインのシェスタが一例だろう。そのような地域も広い意味で「夜型社会」と呼べるかもしれない。沖縄の場合、「モーアシビ」のように夜、家の外に出て、恋人と愛を語らう文化もあった。「夜型社会」をマイナスのメージのみで語ると、そのような習慣・文化も否定されるが、昨今、問題とされる「夜型社会」と一線を画しているだろう。わたしたちが問題としている「夜型社会」は、昼と同じように夜も活動的な社会、昼延長型の夜型社会だ。
 昼は体を動かして働き、夜は体を休めつつ楽しむ社会は、昼と夜の区切りが明確だ。しかし、昼と同じように夜も活動的な場合、体を休めることができない。すなわち、睡眠が十分に取れなくなる。睡眠が十分に取れないと、本来、活動的である昼に活動できなくなり、物事に集中できない、感受性に乏しくなるなど情緒面にも悪影響が出てくる。昼に活動しないため体は疲れず、夜はなかなか眠れなくなる。生活習慣の乱れの悪循環だ。
 沖縄の子どもたちの学力・体力低下の原因が、生活習慣の乱れにあるという指摘は、このような悪循環を指している。

■第3次産業の肥大と夜型社会
 昼延長型の夜型社会は、日本の場合、高度成長期、24時間操業の工場が出現していくうちに形成されたと私は考えている。昼と同じように夜に働く人たちがいて、その人たちに食事や娯楽を提供するための人たちが出現して、昼延長型の夜型社会が形成されたわけだ。
 しかし、これは県外の事例であり、沖縄の場合は必ずしも当てはまらないだろう。24時間操業の工場が多数稼働するほど第2次産業が盛んではなかったからだ。沖縄の夜型社会は、県外からの観光客が増え、その観光客に食事や娯楽を提供していくうちに形成されていったと思われる。観光客が多くない離島は依然、昼延長型の夜型社会が進行していない。第3次産業が他県に類がないほど肥大化している、いびつな産業構造となっていることが、昼延長型の夜型社会の背景となっている。

■子どもたちへの弊害
 生活習慣の乱れの悪循環を生む夜型社会の悪影響が最も大きく出るのは子どもたちだ。学校に通い昼が中心の生活リズムで生きている子どもたちがいったん、夜型の生活習慣を身につけると、本来の生活リズムを崩してしまう。
 子どもたちが夜型の生活習慣になりやすい理由として、第一に挙げられるのは、昼より夜が楽しいからだ。家に帰った後のテレビやゲームが昼の授業より楽しくて、夜に寝る時間が遅くなる子どもたちは少なくない。
 第二に、昼は体を動かしていないから、夜は眠れないというものだ。学校が終わった後、塾に通ったり、習い事に通うなど、子どもたちは昔と比べ、驚くほど忙しい。昔と違うのは、頭は疲れているが、体が疲れていないことだ。子どもが持つエネルギーは膨大で、夜早く寝るためには、昼に体を動かす遊びなどをして、エネルギーを発散する必要がある。しかし、塾・習い事が忙しい分、体を動かして遊ぶ時間などがないため、エネルギーを発散できない。だから、家に帰っても、すぐには眠れず、夜型になっていくというわけだ。
 夜型になった子どもたちの生活習慣を、どう改善すればいいのか。答えを出すのは極めて難しいが、まずは、子どもたちが楽しめる授業、魅力的な昼をつくることだろう。
 ここで「つくる」という表現を使ったが、「復活させる」という表現が正しいかもしれない。昔の子どもは学校から帰ると、ランドセルを投げ出して友だちと外を駆け回っていた。「山学校」だ。それを復活させる。今は学童クラブがそれに当たるだろう。

■「学力」とは何か
 「山学校」には、勉強もせずに遊びほうけているイメージがあるかもしれない。「山学校の復活を」と言うと、学力がさらに低下しないかという疑問が出てくるだろう。しかし、真の学力とは何かを考えてほしい。
 全国学力テストで測られるのは、基本的には知識であり、点数が高いほど良いということだ。言い換えると、人より点数が抜きん出ていることは良いことだということになる。
 知識は確かに大事だが、私が考える真の学力とは、問題をどのように解決していくかを考える力だ。
 子どもたちが今、学校で教えられていることは、問題を解決するための道具だ。しかし、その道具の使い方を教えているとはいえない。 「山学校」で他人と交わり、集団で行動することで、互いを支え助け合う思いやり、共にやり遂げる根性、そして、道具の使い方(問題解決力)を学ぶことができると私は考えている。
 大学で学生に教えていたり、小中学校を回っていると、沖縄の子どもたちには、問題解決力がかなりある。私はこの力を培う場としての「山学校」を積極的にとらえたい。
 この学力観の転換は一見、夜型社会と関わり合いがないように思うかもしれないが、私は深く関わっていると考えている。
 なぜなら、子どもたちの問題解決力を培う場をつくっていくことで、子どもたちの膨大なエネルギーを発散させ、正しい生活習慣をつくる。それが、夜型の生活習慣から抜け出すことにつながっていくからだ。

■夜に働く親が悪いのか
 子どもが夜型の生活習慣になるのは、親の責任だという指摘があるだろう。確かに、子どもを生み育てるのは、一義的に親の責任だ。しかし、沖縄の場合、親が夜型の生活習慣にならざるを得ない社会、経済があることを忘れてはならない。
 沖縄の産業構造は第3次産業が肥大化し、多くの親の就業時間が夜間に及んでいる。過度な夜間就業を生んでいる沖縄の経済状況を改めることが、昼延長型の夜型社会の是正につながる。もちろん、第3次産業に従事する人すべてが、夜に働いているわけではない。しかし、完全失業率が8.6%、有効求人倍率が0.27倍、最低賃金が627円という厳しい経済状況の下、子どもを生み育てていくために、昼より賃金が高い夜に働く親が、特に母子家庭などでは多いだろう。
 「衣食足りて礼節を知る」という言葉があるが、礼節(正しい生活習慣)以前に、沖縄の場合、衣食が足りていない貧困問題があるわけだ。
 産業構造の変革は一朝一夕にできることではない。その変革の過渡期をどう手当するかが問題となってくるが、私は「ベーシック・インカム」という制度を提言したい。
 「ベーシック・インカム」は「基礎所得」と訳されるが、すべての人に最低限の生活に必要な費用を税金から給付するという社会保障制度だ。私の場合は、地域共同体を維持するための労働、たとえば、地域で子どもを育てる、老人を介護するといった「労働」の対価として、税金から「賃金」を出し、地域共同体の維持強化を制度的に担保していくという意味合いも持たせたい。
 もちろん、財源をどうするかの議論は不可欠となってくる。実現性を疑問視する声も当然、出てくるだろう。しかし、所得の多寡にかかわりなく給付されている「児童手当」はこの制度の一つの形であり、実現性が乏しいとは必ずしも言えない。まずは「児童手当」を拡充していくことで、子どもを持つ親の生活を保障し、夜に働かなくともいい社会をつくっていくことは、十分に現実的だろう。

■負の連鎖
 昼延長型の夜型社会が現在の子どもたちに悪影響を与えていることは、これまで述べてきた通りだが、それ以上に怖いことは、未来の子どもたちへの悪影響だ。昼延長型の夜型社会で生まれ育った子どもたちは、夜型の生活習慣を生活リズムの原体験として身につけていく。その子どもたちが、さらに子どもを生み育てていくとき、夜型の生活習慣が原体験としてあるため、自らの子どもも夜型の生活習慣の中で育てていく可能性が高くなる。
 夜型の生活習慣は現在の子どもたちの可能性を摘むとともに、未来の子どもたちの可能性も摘んでいくという、負の連鎖が継承されていくわけだ。
 そして、負の連鎖の結果、最も懸念されることは、少子化の急速な進展だ。皆さんは深夜の飲食店で、就学前と思われる子どもたちが歩き回っている風景を見たことはないだろうか。もちろん、親が子どもを連れて来ているわけだが、まゆをひそめた人も少なくないだろう。私もそのような状況は決して良いとは思わないが、子どもを連れている分、まだ健全だと思っている。私が最も懸念していることは、夜型の生活習慣で育ってきた若者たちが、夜に活動する自分の生活リズムを維持するために、子育てしようと思わなくならないかということだ。
 子どもを生み育てていくことは、自分が生きていく上で煩わしいと思って、子どもを持たない人が増えていくと、世の中はどうなるか。日本の合計特殊出生率は1.37。日本の人口は1億3000万人余だが、これを100人に換算すると、現在の子どもの数は14人となる。出生率がこのまま推移した場合、50年後には半減して7人。75年後には子どもがいなくなる、という試算がある。
 子どもがいなくなるということは、歴史が終わるということだ。沖縄は出生率1.78と日本では最も高い地域だが、50年後、75年後、100年後を考えると、決して安心していられる数字ではない。
 現在の子どもたちが将来、子どもを安心して生み育てられる社会、その子どもたちがさらに安心して生み育てられる社会を築くためには、昼延長型の夜型社会を変えていかなければならない。

■沖縄の可能性
 昼延長型の夜型社会の弊害が集約されたような沖縄だが、私はこの社会を変革し、社会意識・構造自体を変える力が沖縄にはあると思っている。
 離島などには今も、自然のリズムで営まれる暮らしが残っている。そして、地域の子どもは地域で育てるという地域共同体の力が、だいぶ減ったとはいえ、まだ残っているからだ。
 社会を変革することは容易ではない。まずは、昼延長型の夜型社会の中でもできることをする。親が夜に働かざるを得なくとも、子どもたちを安心して育てられる場が必要だ。就学前の子どもなら、夜間保育を充実させていく。地域、隣近所で子どもを預かれるような制度をつくっていく。小学生なら、学童クラブを充実させて、子どもたちが夜型の生活習慣にならないような環境をつくる。集団で行動するから、問題解決力を養うこともできるだろう。そして、中学生・高校生以上なら、地域の青年会を再活性化・再構築して、参加していく。問題解決能力を身につけた子どもたちが実際、地域の青年会に入っていくことでその力を生かし、磨いていき、地域自体を良くしていくという相乗効果も期待できるだろう。
 沖縄の夜型社会の弊害をさまざま指摘してきた。暗い話ばかりだが、沖縄の子どもたちには力がある。その子どもたちが十二分に力を出せる社会をつくることが、親だけではなく、大人の責任だ。
 社会の変革は、最も弊害、矛盾が集約されたところから始まり、社会全体に波及していくことは、歴史が証明している。言い換えれば、沖縄が変われないと日本は変われない。沖縄が変わると日本が変われるということだ。沖縄に問題があるからこそ、沖縄の可能性があると私は思っている。

【夜型社会】
 西本裕輝琉球大学准教授の研究によると、全国学力テスト・全国体力テストの結果を分析した結果、学力・体力の低下が生活習慣の乱れと相関しているという。また、ACジャパン(旧公共広告機構)は7月1日から、沖縄地域キャンペーン「子供達の睡眠を奪わないで下さい。」を実施。夜型の生活習慣が子どもたちの「集中力や学力の低下」「深夜徘徊など、非行化」「性の早熟化」「生活習慣病の早期誘発」「キレやすいといった情緒問題」を引き起こすとして、子どもたちを午後9時までに寝かせるよう訴えている。

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