『大琉球料理帖』高木凛著 新潮社1470円
アメリカでは沖縄のイメージが「ロングライフ(長寿)」にあることを、ロサンゼルスの米国健康食品展に出張して初めて分かった。本書は、琉球王府侍医頭であった渡嘉敷親雲上(ペーチン)通寛が、中国での研修を経て1832年に発表した『御膳(ごぜん)本草(ほんぞう)』という琉球食療法を基に「六〇の食材、七〇の料理を再現」した料理本であるという。
原著は、琉球王朝時代に王様のために薬用食物を解説したもので、本来は庶民のためのものではなかった。しかし、この時代は記録的な旱魃(かんばつ)や飢饉(ききん)が発生し、王府としても庶民を積極的に救済する必要性があったのであろう。薬用食物の薬効や食べ合わせの知識が、県内各地に広まったのは、地方に派遣された医師の手伝いを島人がしたことにあるという。韓国ドラマ「チャングムの誓い」にも、主人公が王の命令で住民と一緒に疫病対策に活躍する場面があった。朝鮮国も漢方が主流である。
現在でも、日常的に使われる「タベグスイ(食養生)」とか「クスイムン(薬物)」という考え方は、渡嘉敷親雲上通寛など、王府医師団の啓蒙(けいもう)の成果ということになろう。沖縄の長寿を支えたものが、このような庶民レベルにまで普及した医療体制にあったとは驚きだ。解説にある「食はクスイムン」の対象になった穀類・野菜・海藻・肉・魚介類・果物まで、300品種の素材は、そのまま現代社会に活用可能な財産と思える。本文中に挿入されている「コラム」も見逃せない。
巻末にある「琉球貴族・尚順男爵の琉球料理」には、画家の藤田嗣治による「首里の尚順男爵」という一文が紹介されている。藤田は、泡盛と料理の素晴らしさについて「琉球のこの夜のもてなしは、私にとって終生忘れることのできぬ一頁となった」と激賞している。泡盛と料理を考える上では、解説文からも多くのヒントが得られると思う。沖縄の食材が、クスイムンというキーワードで紹介されることも多いが、本書は「料理本」というより食材事典でもあり、琉球料理の歴史書としての役割も十分果たせるものといえよう。(上田不二夫・沖縄大学教授)
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