日米安保の負担の大部分を基地の島・沖縄が背負い、県民の基本的人権と平穏な暮らしが侵され続けている。こうした“憲法番外地”とも言える状況に対し、空前の規模で告発の矢が放たれる。
嘉手納基地を離着陸する米軍機の騒音に苦しむ周辺住民らが提訴の準備を進めている、第3次嘉手納爆音訴訟の原告が2万人を突破することが確実になった。
基地騒音などの公害訴訟を含め、2万人超のマンモス原告団は国内で例がない。
改善の兆しが見えない基地重圧に業を煮やし、実に約70人に1人の県民が原告に名を連ねる。現代の民衆蜂起と言っていい。
■差別への憤りも原動力
基地を提供しながら、騒音源の米軍機の運用に口を挟まない国、飛行差し止めに踏み込まない判決を繰り返してきた司法に対する積年の憤りが我慢の限界を超えたことの証左である。
2010年は、普天間飛行場の返還・移設問題を軸に基地問題が激しく動いた。県内移設反対の民意がかつてなく高まったにもかかわらず、民主党政権は公約を翻し、名護市辺野古への移設に回帰した。
第2次嘉手納爆音訴訟は最高裁で上告審が継続している。その判決を待たずに、原告団は基地周辺5市町村で6支部を結成し、新訴訟の意義を説く取り組みをきめ細かく続け、原告を募る作業を進めてきた。
一般市民が国相手に訴えを起こすことには勇気がいるが、主義主張や世代を超えて2次訴訟の4倍の原告が結集した。あくまで沖縄に基地を押し付けようとする「構造的沖縄差別」への憤りが行動を起こす原動力になったことは間違いなかろう。
司法の場でも圧力をかけ続けない限り、飛ばし放題に近い基地運用から生活を守れないという、主権者の行動が大きな広がりを見せたのである。
昨年5月の普天間問題の日米合意後の世論調査で、現在の日米安保体制を維持すべきだと答えた県民はわずか7%に落ちた。
日米安保を今のままの形で維持する限り、基地被害が沖縄に集中し続ける状況を改められないという怒りと諦めを帯びた沖縄の民意の地殻変動である。その延長線上に今回の大規模訴訟がある。
日米両政府はこれを真摯(しんし)に受け止め、爆音被害を目に見える形で減らす対策を取るべきだ。そうでなければ、基地の存在自体が県民の敵意に囲まれ、日米安保の根幹を揺るがす火種となるだろう。
米軍の世界戦略を担う嘉手納基地は、約100機の常駐機が爆音をまき散らす。さらに米本国などから飛来する外来機が急増し、爆音禍はひどさを増している。米軍再編に伴う訓練移転の負担軽減策は一向に成果が上がっていない。
■異常極まる運用
乗用車の1メートル前で目いっぱい鳴らされる警笛を聞くのと同じレベルの110〜120デシベルの離陸音で、寝静まった住民が未明にたたき起こされる事態も頻発している。嘉手納基地は、世界中の米軍基地の中でも異常極まりない運用が続いている。
国民の権利救済の砦(とりで)であるべきはずの裁判所は、安保条約に基づいて駐留する米軍機の運用を制限できないとする「統治行為論」に逃げ込み、住民被害を抜本的に救済する手は講じてこなかった。
イタリアの米軍航空基地は、イタリア軍司令官の管轄下に置かれ、住民生活に悪影響を及ぼす飛行訓練は実施できない。有事を除き、1日の飛行を44回に制限したり、夏場の昼寝の時間には訓練飛行を全面的に止める運用がなされている。
度を超えた対米追従外交のあまり、住民生活を犠牲にした基地運用が続く嘉手納や普天間の両飛行場との落差は大き過ぎる。
1982年の第1次提訴以来、嘉手納爆音訴訟は、27年間の米軍統治を経て、本土復帰後も続く基地被害の象徴を告発し、自治体の基地行政とも連携してきた。
基地被害と決別する自己決定権を発揮する強固な意思を宿した法廷闘争は、沖縄社会の痛みを投影する性格を帯びている。
もはや、提訴と違法判決を受けた賠償が続く悪循環を断ち切らねばならない。司法は騒音源である米軍機の飛行差し止めに踏み込む法理を編み出すべきだ。
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