漫画『俺はまだ本気出してないだけ1』(小学館)
タイトルが良すぎる。『俺はまだ本気出してないだけ』。どこかの国の首相が言ったら「ふざけんな」でアウトだが、四十路の一市民が見得を切ったなら噴き出して笑える。同時に奥底で「実はギリギリなんだよな」と共振もする。埋めようもなく空虚なのに、何かがガスのようにたまり破裂寸前。そんな感覚を知る人には、たまらない漫画だ。
主人公はシズオ、40歳。父と、高校生の娘との3人暮らし。15年間何となく働いて、会社を辞めた。本当の自分を見つけようと思って辞めたのに、不安でドキドキしている。「これだ!」とひらめいて宣言したのが「俺、マンガ家になるわ」。でも、描く事が見つからない。そもそも漫画など描いたことがないシズオに父はあきれ、滝の涙。娘は多くを語らないが、まなざしはむしろ温かい。
ハンバーガーショップでアルバイトをしながら、漫画家デビューを夢見るシズオ。何かにつけて若者にバカにされたり、弱いくせにトラブルに割って入り、正義の味方を気取ってボコボコにされたり…。自分に正直で不器用、お調子者だが傷つきやすい。葛藤だってあるのに、父親からはこう言われてしまう。
「おまえは、ピンチだ」
映画『あぜ道のダンディ』(全国順次上映中)が頭に浮かび、ダブってくる。50男の不器用な生きざまを見事に描いた28歳の石井裕也監督が、先日語っていた。「人生、おかしみと悲しさということに気づいたんです。その2つだけで映画は作れる」と。『俺まだ』と併せてお薦めします。
『俺まだ』は『月刊IKKI』で連載され、コミックが1〜4巻まで出ているが、著者・青野春秋が体調を崩し休載中。人物像や作品誕生の経緯を担当編集者に聞くと「著者は男性ですが、それ以上は今はまだ、ベールの中という感じですみません」と詳細は秘密。ただ、秋には完結へ向けて連載再開の見込みだ。果たしてデビューなるのか、シズオ。
私の職場に、ヤスオという太り過ぎた30代後半の記者がいる。ダイエット王を目指し、予想通りにリバウンド王。挙げ句にアイドルみたいな口調で言うのだ。「3歩進んで5歩下がるな人生だけど頑張ります。ホッピー・ステップ・ハイサワー!」。
く、くだらない。長らくギリギリで瀕死の私は、それを聞いて言った。「もう少し生きてみようと思う」(敬称略)
(宮崎晃の「瀕死の私にエンタメを」=共同通信記者)
※『俺まだ』を読んだら、47NEWS内サイト『Gメン47』の『石井裕也監督特集』も読んでみてください。(宮崎)
(共同通信)
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みやざき・あきら 共同通信社記者。2008年、Mr.マリックの指導によりスプーン曲げに1回で成功。人生どんなに窮地に立たされても、エンタメとユーモアが救ってくれるはず。このシリーズは、気の小ささから、しょっちゅう瀕死の男が、エンタメ接種を受けては書くコラム。
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