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野田秀樹の問いからスベスベに ディストピアよりアイをこめて2012年3月8日 
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野田秀樹の作・演出・出演舞台『THE BEE』は、巧みな「見立て」にもうならされる。観劇を強く推奨します。
        宮崎 晃

■近頃よく見た悪夢。ドクサイだよ全員集合!「アイ」なきシステム、ルールはメガ盛り、管理のおやつは排除だドン。そんな集団はごめんだ。だが、「彼らは異常。正しきはこちらだ」と言い放てば、たちまち自分に生える排他の芽に凍り付く。支配されるな、支配するな。

 まこと2月は日々パサパサ。夜の銀座を歩くと客引きの男に言われた。「キャバクラですか?」。はぁ?「あなたがでしょ」。逃げるようにミュージカル『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』各25周年公演DVDを夜な夜な接種。なかば耽溺。シンプルで感情移入しやすいものに吸い寄せられる危うさか。そして3月。

■野田秀樹が、暴力の連鎖を描いた舞台『THE BEE』の上演に寄せて書いていた。「『悲しみの淵にいる自分を理解しようとする自分への優しさ』がいつしか『他人を理解しようとしない不寛容』に姿を変え、やがて『暴力』そのものに形を変える」(★1)。世界各国で上演し、作品で言いたいことを聞かれる野田は「問い掛けであって、答えはない」と返すことにしたという(★2)。

■「正解はありません」。編集者・松岡正剛は後進育成の場で、答えのない問いを出す。一方、彼の著書が毎年、高校など10数校の入試問題に使われる。問いは大抵、「ここで作者が言いたいことは何か? 次のうち正しいものを選べ」。ところが、作者本人は正解できた例がないそうだ。「選択肢が全部正解なんだもの」。含意が無視されていると嘆いた。「矛と盾で矛盾じゃなくて、矛と盾を合わせてホコタテがあっていい」(★3)。賛同だ。何でも白黒つけたがるのは、ひとまずゼブラーマンに任せて、リーダーよ、アメかムチかとか、アメとムチといった文脈を離れて、「ムチみたいなアメって作れちゃう?」くらいの触発を。

■『THE BEE』は感情移入を拒絶して問うクールな悲喜劇。ただ、この作品でさえ、ヒリヒリする刺激、様式化された動きが中毒性をはらむ。『オペラ座の怪人』は分かりやすいが、人々が一人の男を怪人にしてしまった、排除と暴力の虚しさも問う、善悪で割り切れぬお話。レミゼだって、ジャン・バルジャンが赦され、赦そうと頑張るじゃん。ひとときの熱狂や耽溺をすなわち危うしとせず、そのとき自分を一度、笑えたら。

 春雨。天気予報がはずれて恨むうちはシステム依存。至急、退化の改新を。映画『キツツキと雨』(沖田修一監督)を接種した。あれこれ含んだやさしい佳作だった。(敬称略)
 (宮崎晃の「瀕死の私にエンタメを」=共同通信記者)

★1:『THE BEE』は2006年ロンドン初演。英語版ワールドツアーは東京・水天宮ピットで3月11日まで。日本語版は4月25日〜5月20日水天宮ピット、以後、大阪市、北九州市、長野県松本市、静岡市で上演。★2:3月4日開催「芸劇+トーク――異世代劇作家リーディング 『自作自演』 別役 実×野田秀樹」★3:3月1日開催【KAAT NIPPON文学シリーズ トークセッション「日本文学力〜内外からの視点〜」松岡正剛×宮本亜門】での発言より。
(共同通信)
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宮崎晃のプロフィル
 みやざき・あきら 共同通信社記者。2008年、Mr.マリックの指導によりスプーン曲げに1回で成功。人生どんなに窮地に立たされても、エンタメとユーモアが救ってくれるはず。このシリーズは、気の小ささから、しょっちゅう瀕死の男が、エンタメ接種を受けては書くコラム。
(共同通信)



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